中国の汚職摘発における「中央巡視組」の意義と課題

書誌事項

タイトル別名
  • The Significance and Problem of “The Inspection Team” on Corruption in the People's Republic of China
  • チュウゴクノオショクテキハツニオケル「チュウオウジュンシグミ」ノイギトカダイ

抄録

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本稿は,習近平体制がどのように「中央巡視組」を整備し,強化したのかを明らかにすることであり,中国共産党の「巡視」体制の位置づけの変化とその役割を考察しながら,「中央巡視組」の制度化の過程,権限,調査方法,成果について論述するものである。  建国以来の中国では,長期にわたって,人民法院,人民検察院,公安部において汚職が蔓延してきた。また,中国共産党中央規律検査委員会の汚職調査では,規律検査委員会書記の序列が低いことが原因で,序列の高い領導幹部の汚職摘発に対する正当性を保てなかった。  以上のような問題を解決するためには,汚職を摘発できる独立した調査機関を構築する必要性があった。そこで,習近平政権では,2003年に設立された「中央巡視組」を,中国共産党中央委員会直属の独立した汚職調査チームとし,汚職調査を制度化した。  「中央巡視組」は,党国の中枢機関の領導幹部を調査対象に,政治巡視を展開した。調査は,単なる汚職だけではなく,政治規律と政治の不文律に関する違反が調査項目の中心になった。党中の路線,方針,政策に背いた行動や風潮が見られた場合には,処分対象として,各機関に引き継がれ,処分された。  2015年に制定された「中国共産党巡視工作条例」は,2017年に改正され,調査対象者,調査項目がより明確化した。これを受けて,2018年には,強制権限を必要とする調査のために,独立した汚職調査機関である「国家監察委員会」を設立し,逮捕や拘束を伴う調査は国家機関の業務とした。これにより,党の「中央巡視組」と,国家の「監察委員会」による二重体制の汚職調査の制度化に成功し,法治化を進める習近平政権は,社会主義国家の持続に必要な制度化を推進した。

収録刊行物

  • 比較法雑誌

    比較法雑誌 54 (4), 133-179, 2021-03-30

    日本比較法研究所

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