方言多用地域における表現の多様性 : 介護施設利用者が食事場面で使用する方言について

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  • Diversity of Expression in Regions Characterized by the frequent use of Dialects : Dialects Used by Nursing Home Residents in the Context of Meals

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本研究は熊本市を中心とする地域で使用されている方言を、看護・介護に従事する外国人が「聞いて理解する」ための、方言学習用アプリ教材開発を目指している。教材作成に先立ち、介護施設で働く日本人職員40名を対象に「利用者がよく使う熊本方言」に関する質問紙調査を実施した。本稿は調査で収集した熊本方言について分析し報告するものである。 調査ではまず看護・介護に携わる外国人のための日本語学習教材『専門日本語入門 場面から学ぶ介護の日本語』の中から、「食事」「痛み・症状を訴える」「日常生活」の場面で、施設利用者の発話として例示されている文を抽出した。この文を日本人職員に「食事が済む→もう、クイオワッタバイ」のように、「施設利用者からよく聞く熊本方言」に変換して記述してもらった。本稿で分析対象とするのは食事の場面で使われる共通語文(11文)に対して回答のあった熊本方言の文(512文)についてである。 収集した文を「状況を説明する表現:名詞+が+状態変化動詞/形容詞」、「相手の行動を促す表現」「自分の行動について述べる表現」に分けて統計的手法を用いながら分析を行った結果、次のような特徴が明らかになった。 形容詞については全て方言形「ナカ(ない)、カタカ(固い)、コユカ(濃い)、オオカ(多い)」のようにカ語尾(熊本方言で形容詞の終止形・連体形活用語尾が「カ」になること)が見られる。助詞については、主格を表す助詞「が」は「ノ、ン」へ、「を」は「バ」への交替が大勢を占めている。 助詞・形容詞に共通語との規則的な対応が見られる一方、文全体を見ると共通語文に対応する地域方言の文は多様である。例えば名詞「みそ汁」に対応する表現として「ミソシュル、ミソオツユ」など九つのバリエーションが見られるほか、「(みそ汁が)さめる」には動詞「ヒユル(冷える)、サムル(冷める)」のほか形容詞「冷たい」があてられている。述部はさらに「ヒエトル(冷えている)、ヒエテシモトル(冷えてしまっている)」「サメトラス(冷めている)、ウッサメチシモトル(冷めてしまっている)」など、多様な形式が出現する。 共通語においても、現実の言語コミュニケーションの場面で、同一事象を表す語や文法形式の組み合わせが多岐にわたることは想定されるが、社会活動の中で方言が頻繁に使用される地域においては、さらに方言特有の音変化や文法形式のバリエーションが重なり、共通語以上に多様な表現形式が出現することが今回の調査で確認された。 社会活動の中で方言が頻繁に使用される方言多用地域で看護・介護に従事する外国人のための方言学習教材では、助詞や形容詞に見られる共通語と地域方言の規則的な変換とともに、出現頻度の高い多様な方言形式を提示する必要がある。今回の調査で観察された熊本方言の音声や文法表現の特徴、出現頻度を詳細に分析し、今後教材化を進めていきたい。

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