アタヤル語の「サトウキビ」に起きた特異な形態変化

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タイトル別名
  • “Sugarcane” in Atayal : A unique morphological change
  • アタヤルゴ ノ 「 サトウキビ 」 ニ オキタ トクイ ナ ケイタイ ヘンカ

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抄録

アタヤル語(オーストロネシア語族アタヤル語群)の「サトウキビ」としてbilusという形式が広く見られる。一方でアタヤル語に系統的に最も近い言語であるセデック語はsibusという形式であり、二つの形式は一見、関連がないように思われる。このうちセデック語のsibusは、オーストロネシア祖語の*Cəbus「サトウキビ」に遡る。一方、アタヤル語のbilusはオーストロネシア祖語の形式から逸脱しているように見えるが、本稿ではセデック語と同様にオーストロネシア祖語の形式に遡ることを主張する。アタヤル語の形式の由来を解く鍵となったのが、アタヤル語ツオレ方言系のTakonan集落で記録されたsabilusという形式であり、この形式から古くは語頭にsを持っていたことがわかる。さらにより古い形式はsəbilusと推定される。このsəbilusとオーストロネシア祖語の*Cəbusの間には、前者の語中のilを除外すれば、規則的な音対応が見られる。そして、このilは、化石接中辞の付加によるものと分析した。このような化石接辞が付加されるのは、アタヤル語群特有の形態変化である。しかもこの化石接中辞は語根səbusの語中子音bの直後に付く(化石中央接中辞と呼ぶ)ため接辞が付加される位置も特異である。変化の流れは、まずsəbusに化石接中辞〈il〉が付きsəb〈il〉usになり、Takonan集落では語頭母音をaに替え(sabilus)、他の多くのアタヤル集落では前次末音節を脱落させた(bilus)。別のツオレ方言系集落では化石接辞附加の起きていない形式cubusが記録されており、これらからアタヤル祖語の「サトウキビ」は*cəbus と再建される。

収録刊行物

  • 北方人文研究

    北方人文研究 15 85-97, 2022-03-25

    北海道大学大学院文学研究院北方研究教育センター

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