蜂須賀家旧蔵専修大学図書館蔵『和漢朗詠集』の漢字音

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タイトル別名
  • ハチスカカ キュウゾウ センシュウ ダイガク トショカンゾウ 『 ワカン ロウエイシュウ 』 ノ カンジオン
  • Sino-Japanese Phonetic Glosses in Wakan Roeishu from the Former Collection of the Hachisuka Family in the Senshu University Library

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抄録

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『和漢朗詠集』は藤原公任によって編まれた、11世紀における和歌と漢詩のアンソロジーとも呼ばれる資料である。『和漢朗詠集』は夥しい写本群が存することもあってか、日本語史の資料としては十分に整理されてきているとは言えず、また漢字音研究の資料としてはその価値は実証的にはほとんど確かめられていない。本稿では本資料の漢字音資料を分析し、その特徴を明らかにすることで『和漢朗詠集』を用いた漢字音研究の基礎を固めることを目的とする。  分析の結果、次の6 点が明らかとなった。(1)仮名音形から鎌倉時代初中期の特徴が見て取れる。そのことは奥書の記述と齟齬しない。ただし上帖(1251年加点)、下帖(1238年)のわずかな年代的な開きも部分的に確認できる。(2)声点は漢音に基づく五声体系(平声軽点は認められるが入声軽点は認めがたい)が主体であり、呉音も交える。声点については上下帖で大きな質的違いは見られない。(3)濁声点(双点)は次濁字に多く、これは漢音の特徴を反映している。全濁字にも比較的多いが、これは呉音の反映とみられる。(4)漢音と呉音に限らず、連濁例が観察される。ともに鼻音韻尾字に後接する場合に著しい。(5)『広韻』去声字・上声全濁字のうち1 拍のものは上声化傾向にある。(6)上昇調+上昇調(去声字+去声字等)、高平調+上昇調(上声字+去声字等)の組み合わせに現れる中低形は本資料ではほぼ回避されていない。回避例に見えるものも1 拍去声字の上声化を反映しているに過ぎない。  本資料の漢字音は鎌倉時代初中期の特徴を基本的には有しつつ、漢音、呉音の語による読み分けが資料内に存在していることから漢語としての発音が指向され、音調実現に日本語の拍数が影響を与えていはするが、日本語アクセント体系に融和しきるような1 語としての単位的結合までには及んでいない、と総括することができた。

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