<論文>母を接ぎ木する --ダーモット・ボルジャーの『セカンド・ライフ』における狂気のスウィーニーの影

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  • 池田, 寛子
    京都大学大学院人間・環境学研究科国際文明学専攻

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タイトル別名
  • <Originals>Mother to be Grafted : Shadows of Mad Sweeney in Dermot Bolger's A Second Life
  • Mother to be Grafted : Shadows of Mad Sweeney in Dermot Bolger's A Second Life

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抄録

アイルランド人作家ダーモット・ボルジャーの小説『セカンド・ライフ』の根底には, 失った過去との対話が何をもたらしうるかという問いかけがある. 主人公ショーン・ブレイクは生後6週間で実母リズィ・スウィーニーから引き離されて養子となり, 生母を知らずに30代半ばを迎えた男である. カトリック教会の管理下にあった母子保護施設を仲介とした不当な養子縁組の実態がこの小説の下敷きになっている. 『セカンド・ライフ』には, 7世紀アイルランドに実在したとされる王, スウィーニーのエグザイルの物語の翻案と呼ぶべき側面もある. 本論文は, この伝説の現代アイルランド文学における再生の軌跡を辿ることを目的とした研究の成果の一部に基づいている. 「スウィーニー伝説」はなぜ『セカンド・ライフ』に組み込まれる必要があったのだろうか. スウィーニーの運命はショーンとリズィの悲劇と二重写しにされながら再構築されている. さらに注目したいのは, 生母の行方を探るショーンの葛藤に, 作者ボルジャーのアイルランド語の伝統への複雑な思いがこだましていることである. アイルランド語はアイルランドの第一公用語ではあるが, ボルジャーを含む多くのアイルランド人にとっての母語は英語であるという現実がある. ショーンが生母との間に築こうとした絆, ボルジャーが模索したアイルランド語との関係, 本稿ではこれらのパラレル関係を浮き彫りにする.

収録刊行物

  • 人間・環境学

    人間・環境学 30 19-29, 2021-12-20

    京都大学大学院人間・環境学研究科

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