ロシア中央軍事博物館にみる軍事博物館の国民統合機能について――軍事博物館の政治的機能に関する考察のための覚書――

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  • Über die Funktionen der nationalen Integration des militärlischen Museums in Europa Fall des Zentralmuseums der russischen Streitkräfte

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抄録

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本稿は、現代ヨーロッパの軍事博物館の政治機能の一事例としてロシア中央軍事博物館の国民統合機能のあり方について考察するものである。広大な国土と多くの民族を抱えるユーラシア国家ロシアは、ソヴィエト崩壊後よき「ラシャーニン」(ロシア国民)を育成するために戦争の共通の記憶、すなわち大祖国戦争の記憶を組織化することによって各人のあいだに愛国心を育成し国民として統合しようとしている。 ソヴィエト連邦時代から続くモスクワのロシア連邦中央軍事博物館は、そのような政治的課題に対応するべく大祖国戦争を中心とする展示を展開し、ファシスト国家ドイツという「人類の敵」に対する正義の戦いを遂行した赤軍とソヴィエト人民という二項対立的なシェーマのもと、人々を「われわれ」として一体化させる「物語」を構成している。そこには、虚実織り交ぜたナショナル・ヒストリーのもとに国民統合をはかる「古い軍事史」の考え方が忠実に反映されていることから、この国では軍事博物館が今もって公定ナショナリズムを表現する場として機能していることが読み取れよう。 ロシアのプーチン政権は近年、大祖国戦争の記憶を「聖別」し軍と軍人の存在意義を無批判に強調するイデオロギー的施策を矢継ぎ早に打ち出してその権威主義的な性格をさらに露骨に示すようになっているが、それもこれも戦争の記憶もとに国民統合せざるをえないロシア特有の事情によるもので、問題はその適切な表現の仕方にあるようにおもわれる。ロシア中央軍事博物館も展示は、そうしたロシアの今後の政治的課題についても示唆するものになっているのである。

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