アメリカにおける移住労働者の労働条件とH-2Bプログラム

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  • Working Conditions of Migrant Workers and the H-2B Program in the United States
  • アメリカ ニ オケル イジュウ ロウドウシャ ノ ロウドウ ジョウケン ト H-2Bプログラム

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抄録

アメリカでは,高技能職以外の職種を対象とした短期就労ビザ制度がH-2Bプログラムとして制定されている。このH-2Bプログラムの下で働く移住労働者の労働環境の問題点がNPOや研究者,政府機関から指摘されてきた。本稿は,H-2Bプログラムの下で働く移住労働者が直面する労働環境についてH-2Bプログラムの制度の特徴とかかわらせて考察している。 H-2B労働者を雇用するためには,使用者は国内で必要な雇用を埋めることができないことを証明し,それが承認された上でH-2B労働者の雇用の申請を行う。使用者には,国内での賃金や労働条件の低下につながらないよう標準賃金をH-2B労働者に支払うことが求められている。しかし実際には,H-2B労働者は採用段階ならびに実際の仕事において様々な困難に直面している。採用段階では,H-2Bに応募する労働者はあっせん業者や使用者に対して,ビザ取得にかかる費用などとして数百ドルから数千ドルにおよぶ手数料を支払う場合が存在し,借金をして手数料を工面することも指摘されている。アメリカで働きだして以降では,残業代の未払いなど約束した賃金を支払わないケースや,不衛生なアパートを宿舎としてあてがい多額の家賃を差し引く事例なども存在する。H-2B労働者が直面する権利侵害や困難は,H-2Bプログラムの制度のあり方から生じている。本プログラムで働く移住労働者は,単一の使用者の下で働くことしか認められていないため,職を失うことはアメリカでの滞在資格を失い,本国に帰らなければならないことを意味する。それゆえ,労働者は職場の労働環境に不満があったとしても,改善を求めることは極めて難しく、仕事を変えることもできない。また労働省の調査機関の予算や人員の制約も大きく,調査や取締りが十分に行われない状態となっている。こうした状況に対して,2010年代以降,何度かH-2Bプログラムの改善を盛り込んだ法案が提案されてきた。そこでは,H-2B労働者をあっせんする業者への規制や,賃金水準の向上,単一の使用者との結びつきの改善などが提案された。しかし,これらの法案はいずれも立法化されるに至っていない。

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