自殺幇助に対する基本権 : ドイツ法における議論

書誌事項

タイトル別名
  • Das Grundrecht auf Suizidhilfe : Die Debatte im deutschen Recht

抄録

本稿は,2022年10月19日,中央大学市ヶ谷キャンパスで行われたMartin-Luther-Universität Halle-Wittenberg大学のHenning Rosenau教授の,「Das Grundrecht auf Suizidhilfe: Die Debatte im deutschen Recht(自殺幇助に対する基本権─ドイツ法における議論─)」と題する講演原稿を和訳したものである。本講演は,ドイツ連邦憲法裁判所2020年2月26日の判決を素材として展開された。  すなわち,本判決は,憲法上保障された基本権から自己決定に基づく死の権利が導き出されることを確認し,それにより,ドイツ刑法典旧217条(業としての自殺幇助)の規定は違憲無効とされるに至った。このような自殺に関する権利と自殺における不確実性に鑑みて,個々の臨死介助が自己決定的な意思決定に基づくものであることを確認するために,詳細な手続保障が必要となっている。また,その後,ドイツでは,自殺幇助を規制すべく,自殺幇助の可罰性を再度認めようとする草案や制限的に正当化しようとする草案が新たに出されているが,それらはいずれも上述連邦憲法裁判所の判決と矛盾しており,違憲である。さらに,当該判決は終末期の自己決定の意義についての一般的な検討に基づくものであることから,旧217条と同様に終末期の自己決定を制限している216条(要求に基づく殺人)も,憲法適合的解釈によって適用範囲が制限されるべきである,などと論じている。  上記に続けて,講演では,216条の改正案の具体的内容についても明らかにされているが,自己決定に基づく死に対する基本権を肯定する立場から,医師による自殺幇助,臨死介助等についての現行法の解釈と立法論が展開されたものであり,同様の問題に関心を寄せているわが国の議論に大いに参考になるものと思われる。

収録刊行物

  • 比較法雑誌

    比較法雑誌 56 (4), 59-82, 2023-03-30

    日本比較法研究所

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