全ゲノム情報を用いた黒麹菌Aspergillus luchuensisの系統解析

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  • Phylogenetic analysis of Aspergillus luchuensis strains based on whole genome analysis
  • ゼン ゲノム ジョウホウ オ モチイタ クロ コウジキン Aspergillus luchuensis ノ ケイトウ カイセキ

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抄録

泡盛醸造に用いられる黒麹菌はいわゆる黒カビとは異なり,醸造に適した発酵能力を有し,カビ毒を生産しないなどの特徴を持つ産業上の有用株である。近年,黒麹菌の遺伝子情報が明らかになり黒カビAspergillus nigerとは区別される種Aspergillus luchuensisとして再定義された。A. luchuensisには多数の株が存在し,形態や性質の多様性が見られることから,この多様性を説明する遺伝子背景についで情報を得ることの意義は大きい。今回,A. luchuensisの株間の詳細な系統関係を明らかにする目的で,全ゲノム情報を用いた比較解析を行った。41株の黒麹菌および近縁種の菌株のゲノム情報を比較することで系統樹を作成したところ,A. luchuensisとA. niger,A. tubingensisは区別し得ることが確認された。また,詳細な系統樹より,A. luchuensisは2つのグループ(AおよびSK)に大別でき,醸造特性が異なる商用株はそれぞれ異なるグループに分配されていることがわかった。さらに,系統樹の側鎖に位置した株はいずれも戦前に分離された株であり,戦前の泡盛醸造所には分子系統的にバラエティーに富んだ黒麹菌株が存在していたことが示唆された。一方,白麹菌NBRC4308が100-200年前に分岐したと推定できることを指標として,それぞれの株の分岐年代の解析を行ったところAおよびSKグループは1500-3000年前,それ以降のA. luchuensis内の分岐の多くは泡盛醸造の歴史約600年の中で起きたと考えられ,ゲノム解析により泡盛醸造技術の歴史の一端が明らになった。今後,現在の泡盛醸造に用いられている株のグループと大きく離れたA. luchuensisの醸造特性に興味が持たれる。

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