[論文] 岩手県蝦島貝塚出土人骨の埋葬属性とmtDNA・年代測定の分析結果からみた縄文墓制の一様相

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  • [Article] Aspects of the Jomon Grave System Based on the Burial Attributes of Human Bones and the Results of mtDNA and Dating Analysis at Ebishima Shell Mound, Iwate Pref.

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抄録

蝦島(えびしま)貝塚は,岩手県一関市花泉町貝鳥に所在し,蝦島とよばれる独立小丘陵上に立地する縄文時代晩期を中心とした内陸部の貝塚である。蝦島貝塚では,1956年以降数次にわたって調査が行われており,一次および二次調査では57体,三次調査では32体の人骨が出土している。これらの人骨の多くは大洞C2式からA式期の事例とされており,晩期中葉から後葉にかけて形成された連続的な墓域と理解できる。今回,これらの人骨の中から埋蔵属性として埋葬地点が近接するもの,すなわち同一の埋葬小群に含まれると考えられるもの,頭位方向が一致するもの,抜歯型式が一致するものなど,これまで縄文時代の社会構造を検討する上で重要とされてきた埋葬属性について,これが共通する事例をピックアップし,それらの人骨のmtDNAについて検討を行った。その結果,今回検討対象とした事例については,mtDNAのハプロタイプが一致しないということがわかった。したがって,今回検討対象とし,mtDNAの分析ができた6体については,少なくとも母系の系譜的関係にはないということになる。この理由の一つとして,各人骨の年代差ということがあげられるだろう。一方で,較正年代が近い人骨同士の位置関係はどうかといえば,相互に近接しているとは言いがたい位置関係にある。蝦島貝塚における人骨の埋葬属性,年代,mtDNAの分析結果から,どのようなことが考えられるだろうか。可能性の一つとしては,埋葬小群の存続期間は数百年間にわたり,これまでの想定以上に長期間であったということである。そして,可能性の二つめとしては,視覚的・かつ空間的に分節できる埋葬小群を,家族や世帯といった血縁関係者を包摂する既知の人間集団の埋葬地点と捉える理解は間違いであり,実際には縄文人は血縁関係者を埋葬するにあたって,埋葬地点にはあまりこだわらなかったということである。

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