大学における地域密着型教育の受講経験が卒業後に与える影響に関する予備的検討

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  • A Preliminary Study of the Impact of Community-Based Education on university students’ post-graduation outcomes

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抄録

現在、多くの大学でフィールドワークを取り入れた地域に密着した教育が行われている。地域密着型教育の効果について授業の前後での評価はこれまでも行われてきた。しかし、卒業後までを視野に収めた効果についてはほとんど研究されていない。地域密着型教育の効果を深く理解するには長期的な視点での調査研究も必要であろう。  本研究は、地域密着型教育の長期的効果について焦点を当てたものである。地域でのフィールドワーク活動を2005年から継続してきたある大学の一研究室を卒業した社会人1年目から16年目までの卒業生201名を対象に、地域密着型教育の効果について調査を行った。卒業生の中で連絡可能な172名に対してオンラインにて質問紙調査を行った。調査は、学生時代のどういった活動が地域についての学びにつながったのかという問いとその学びが卒業した今現在どのように役立っているかを自由記述にて尋ねる構成で行った。調査期間は2022年12月1日から12月18日までである。148名から回答があった(回答率86%)。これは卒業生全体の73.6% に当たる。さらに、指導教員に対する調査も行った。回答のあった卒業生について、それらの卒業生が学生時代にどの程度地域と関わっていたかを指導教員の視点で5段階にて評価してもらった。この調査は2023年1月に行われた。  調査の結果、回答者148名の中の123名がこの研究室の活動で地域についての学びがあったと回答していた。研究室の様々な活動の中で、卒業生が地域からの学びを実感していたのは長い期間にわたる継続的な地域活動であった。学生が卒業した後も自身の印象として残っている学生時代の地域活動とは、単発のものではなく継続性が重要であることを示唆している。  学生時代に地域での学びがあったと回答した卒業生の自由記述を構造的トピックモデル(STM)により検討した。予備的な検討として、解釈の容易さを考慮し、トピック数は3に設定した。その結果、自由記述から「Topic 1(コミュニケーション機会)」、「Topic 2(地域の情報)」、「Topic 3(地域社会を学ぶ中での気づき)」のトピックが抽出された。地域密着型教育を受講した卒業生は、これらのトピックが役立っていると考えていることがわかった。  トピックの出現割合は、統計的に有意に、卒業後の年数に依存していた。社会人として新人の時期はTopic 1及びTopic 2について多く語る傾向にあるが、年齢を重ねていくとTopic 3を重視する傾向にあった。新人の時期はコミュニケーションという実践的スキルや地域情報などが重要であるが、社会人経験を重ねる中で、地域社会の活性化などを学ぶ中で得た理論的学びが重要になっていくことを示唆する結果である。また、学生時代に地域に深く関わっていたと指導教員が考えていた卒業生ほどTopic 1について、地域での活動頻度が少なかった学生はTopic 2について、それぞれ多く語る傾向にあることも示された。地域に深く関わった学生ほどコミュニケー ションスキルを向上させ、社会人となってからそのスキルが役立っていると感じていることを示唆している。

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