幼児が材の大きさを選んでつくるレーシングカーの製作ー保育者が行う木育ー

抄録

木育は、2004 年度に、北海道で行われた「木育推進プロジェクトチーム」で検討された言葉で、西川(20132013)によると、子どもをはじめとする全ての人が「木とふれあい、木に学び、木と生きる」取り組みである。その後、林野庁(20062006)は『森林・林業基本計画』に「市民や児童の木材に対する親しみや木の文化への理解を深めるため、多様な関係者が連携・協力しながら、材料としての木材の良さやその利用の意義を学ぶ『木育』とも言うべき木材利用に関する教育活動を促進する」と記し、以降各地で木育活動が実施されるようになった。  松井(20132013)は幼児を対象として木育活動を実践しており、「木育は、木を使うことから離れてしまった今の時代に生まれた言葉で、すべての人々が、木に親しみ、木の文化への理解を深めることを目指す教育です」と述べている。また、松井(20132013)は木育で育む、5つの力として、「①樹木とのつながりを感じる力が育ちます➁ものを大切にする心が育ちます③工夫する力が育ちます④根気や、やる気が育ちます⑤協力する力、気づかう心が育ちます」と示している。木工作の例として、「森のかけらのお守り」「葉っぱのペンダント」「水のつみき」「森のつみき」「木のおはし」「木のスプーン」「杉の箱いす」なとが挙げられている。 山下ら(20102010)は木でできた「ロボ木ー」教材を開発し、幼児を対象としたものづくり活動を幼稚園で実践した。この教材は木製の材料を手足首腰が動くようにダボを使って組み立て、自然物や人工物を接着剤で貼り付けるものである。幼児の取り組みの様子から山下らは活動を通して次のことが期待できると考察している。①樹木(自然環境)と木材(生活環境)への興味関心を深める➁立体構成力・材料選択力・イメージ表現力・創造性を培う③接着・接合の技術を学ぶ④木材と水の関係を学ぶ⑤手指の巧緻性と注意力・思考力を培う⑥身体のしくみと動きに興味を持つ⑦自分で創作したロボットに愛着をもち、成就感や自己効力感を持つ⑧いろいろな友だちと物語性のあるイメージや言葉を交わし、遊びやコミュニケーションを広げていく。また、参観日の親子活動として実施した結果から、⑨ロボ木ーから生活観(衣食住)への発展と、家族コミュニケーションの深化がなされたと考察している。 守川(20202020)は幼児が木に親しむことを目的として、地域の児童文化センターや保育園等において、「丸太を切ってつくる二輪車」の指導を行った。守川(20202020)は丸太を固定する枠を作成し、丸太材を枠に入れ、枠を机にクランプで固定し、杉丸太材を安全に切ることができるようにした。そうすることで、幼児自身が丸太材を切って、円盤状にすることができるようになった。その結果、幼児が自分で切った材を使って、車を製作できるようになった。幼児が丸太を切る活動については、過去に類似の研究はなく、守川(20202020)の実践は新たな木育教材を提案したものと評価できる。 しかし、開発した木育教材は、守川(20202020)の実践後は、保育者によって活用されることはなかった。木育活動が一過性のイベントにとどまることなく、現場の保育者によって継続的に実施されるためには、さらなる工夫が必要と考えられる。 守川ら(2022)は研究者と保育者が協同して活動することが、木育活動の継続的な実施に繋がるのではないかという仮説を立て、保育者2 名と年長児を対象とした共同研究を実施した。守川ら(2020)は二輪車の製作指導をしたが、幼児が自分で手動のドリルを扱うことができるように、材を固定する 締め具を製作し、それを机に固定して使用した。幼児が手動のドリルを使った木工作の指導について、類似の研究はなく、新たな指導方法が提示されたと言える。守川ら(2022)は活動を実施した園では園長の理解を得て、保育室内に木工作台を設置することができたとしている。また、幼児自身が必要に応じて取り出して使いやすいように材料用具が配置されたとのことである。さらに、製作手順を写真入りで示した冊子が作成され、幼児が手順を確認しながら木工作ができるようになったと報告している。つまり、研究者と保育者の協同実践を通して、参加した保育者の木育に対する理解が深まり、木育実施に対する意欲が高まったことが示唆される。 上記のように、実践を行った保育者とその園の園長は木育に対する理解と木育を実施しようとする意欲が深まった。しかし、共同研究者が所属する園の保育者全体の木育に対する意識が高まったとは言えなかった。そこで、研究者が幼児に木工作活動を指導している場面を他の保育者が観察できるようにすれば、観察した保育者は木育を行うことへの意欲が高まるのではないかと考え本研究を行うこととした。 本研究では、「幼児が材の大きさを選んでつくるレーシングカー」の製作指導を行う様子を他の保育者が観察できるようにすることで、観察した保育者の木育実施に対する意欲が向上するか評価する。さらに、幼児を対象に木工作指導をする際に留意すべき事項について考察する。 幼児に指導する題材は「レーシングカー」とした。試作を重ね、車体に人の顔を固定すると、楽しい玩具になった。また、レーシングカーの顔を取り外して、体に付けることができるようにした(図1)。研究者がこれまでに実施した木工作指導において、材の大きさや形を幼児に選ばせており、幼児は迷うことなく選択していた。今回の研究でも、幼児が自分の意志を持って製作できるようにするために、材の大きさや形を幼児が選ぶことができるようにした。

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