メンタルヘルスとスピリチュアリティに関わるいくつかの論題

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  • Several topics related to mental health and spirituality

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抄録

メンタルヘルスは、人間の健康における重要な側面である。WHOが創設時に発出した包括的な健康の定義と、半世紀後の改訂提案に示される通り、心身の健康の維持増進を目ざすにあたっては、身体性・知性(理性)・社会性・霊性の四つの次元に注目する必要がある。とりわけ日本語で「霊性」と訳されるスピリチュアリティspiritualityの領域は、人の精神生活にとってきわめて重要であるにも関わらず、従来のわが国では注目されることが少なかった。スピリチュアル/スピリチュアリティに相当するこなれた用語の欠如がその一因であるが、実際には「こころ」「まごころ」といった言葉を用いつつ日本人はその重要性に思いを致してきている。緩和ケアの現場で用いられるスピリチュアルペインやスピリチュアルケアという概念などを通し、日常臨床や社会生活でこの領域への理解が広まることが望まれる。 スピリチュアリティと関連の深い「死生観」についてみると、我が国では第二次世界大戦において、国家の鼓吹する「死生観」のもとに壮絶な敗北と甚大な人命の喪失を経験し、その反動として戦後には「死」について語り考えることが長年にわたって忌避されてきた。それは「死」に対する共同体レベルでの否認であり、高度経済成長はこれと並行した躁的防衛であったとも解釈できる。20世紀末から21世紀にかけて、ホスピスケアの進展、がんの病名告知、脳死問題、超高齢社会の到来などの社会背景のもとに、「死」と「死生観」について日常生活の中で直面し語る営みを日本の社会がようやく取り戻しつつある。近年日本でも行われるようになったデスカフェ活動は重要な語らいの場を提供するものであり、こうした営みを通して日本人のスピリチュアリティの養われることが、国民全体のメンタルヘルスの向上につながるものと期待される。

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