書評 Jenkins, Lyle. Biolinguistics: Exploring the Biology of Language

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タイトル別名
  • [書評] Jenkins, Lyle. Biolinguistics: Exploring the Biology of Language. Cambridge University Press, 2000, xiii+264 pp
  • ショヒョウ Jenkins Lyle Biolinguistics Exploring the Biology of Language

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抄録

本書はチョムスキーの生成文法理論の基本理念や近年の展開を, 生物学諸分野との関わりを中心に描写した概説書である. 生物言語学と呼ぶべき方法論は生成文法の独占するところでは決してないが, とりわけミニマリズムが言語設計の最適性を重要課題に据えて以来, 人間言語に対する生物学的論考は今や生成文法を中心に言語科学の大きな潮流となりつつある. 本書でも遺伝性言語失陥をめぐる旧来からの遺伝学との連携はもとより, 形態発生学から進化論争までさまざまなレベルにおける生物学との生成文法の交流ぶりが活写されている. 特に本書では言語進化の問題が大きく取り上げられており, 「説明的妥当性を超える」ことを目指し始めた現在の生成理論の姿を理解する上で大いに有益であろう. 言語の特性の根本的説明として近年示唆されることの多い対称性の破れや自己組織化の概念にもそつなく言及しており, 生成文法が言語を含めた自然物に繰り返し現れる数学的パターンやそれを生む自然法則の研究としての側面を合わせ持つことをよく伝えている. 一方で, 対立陣営からのチョムスキー批判の多くが誤解と無知に基づく不当なものであると繰り返し指弾し, 時に難解な専門用語も多用されるため, 初学者よりはむしろ, 生成文法にすでに馴染みがありさらに視野を拡げたいと思う言語学徒, 他の専門領域の視点から生成文法に関心を寄せる自然科学者などに薦められる一冊であろう.

収録刊行物

  • 言語研究

    言語研究 121 165-178, 2002-03

    日本言語学会

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