企業評価としての包括利益の認識と有用性

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  • Recognition and usefulness of comprehensive income for corporate evaluation
  • キギョウ ヒョウカ トシテノ ホウカツ リエキ ノ ニンシキ ト ユウヨウセイ

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抄録

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2006 年5 月から施行された会社法は、わが国においても包括利益に関する情報を損益計算書および連結損益計算書に表示できる道を開いた。しかしながら、具体的な包括利益の測定と表示の問題に関する取り組みは、国際会計基準審議会(IASB)をはじめ各国とも今現在進行中である。一方で、新たな業績指標としての包括利益が、従来の当期純利益に対比して優位性を示していないのではないかという問題も議論されている。わが国では、財務会計が提供する情報のうち今日まで最も重要と考えられてきたのは当期純利益である。新たな業績指標としての包括利益は利用者に有意な情報を与えないとする研究結果もみられる。本稿は、米国会計基準を採用する日本企業の財務データから、有価証券の評価差額に焦点を絞り、「その他の包括利益」が当期純利益に与える影響と、企業評価からみた包括利益の認識とその有用性を明らかにすることを目的に、実証分析を中心に考察したものである。実証分析結果から、「その他有価証券」が当期純利益に影響を与えた可能性を指摘した。さらに、企業評価としての包括利益の認識には、「その他の包括利益」を実現利益と並存させることが望ましいと述べた。わが国においては、米国会計基準適用会社を中心に「その他の包括利益」を開示しており、財務指標の算出と比較可能性の点で、アナリストや投資者を混乱させている。しかしパラドキシカルに言えば、財務諸表分析に新たな評価指標の導入を促しているともいえる。包括利益は今後ますます実証分析の蓄積を経て、利用者の多様な分析目的に対し有用な情報を与えることになろう。

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