収益費用観・資産負債観に関するふたつの検討課題(3)

書誌事項

タイトル別名
  • シュウエキ ヒヨウカン・シサン フサイカン ニ カンスル フタツ ノ ケントウ カダイ (3)
  • Shūeki hiyōkan shisan fusaikan ni kansuru futatsu no kentō kadai (3)
  • Two tasks of revenue-expense view and asset-liability view (3)

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抄録

type:text

今日, 会計の議論は, 収益費用観と資産負債観とを座標軸としてなされていると言ってよいであろう。この収益費用観・資産負債観という枠組が, 脚光を浴びるに至ったのは, 制度的には, 我が国の場合, 売買目的有価証券について売却時価評価が取り入れられたことに淵源している。しかし, この概念は, その内容が曖昧模糊としているし, かつ, 多様な概念と結び付き得るので, 会計のどの領域にも援用可能であるかのようにみなされている。つまり, 売買目的有価証券の時価評価のような貸借対照表評価の領域についてのみならず, いわゆる負債性引当金のような擬制負債にかかわる貸借対照表能力の領域についても, さらには, 資産除去債務のようにリスク・実態表示目的への計算目的の転換が必要な領域についても, 収益費用観・資産負債観という枠組で説明されているのである。しかし, それらの領域は, 本当に, この枠組によって, 合理的に説明できるのであろうか。その点, 筆者は大きな疑問を覚えている。そこで, 収益費用観・資産負債観という枠組を援用できる領域を限定する, という作業がどうしても必要になる。この点が, 収益費用観・資産負債観の研究に関する第1の課題になる。 結論的には, 収益費用観・資産負債観は, 売買目的有価証券の時価評価にみられるように, フローとストックとの関係にかかわる計算方式として, 会計上の評価規約の規定に関して, 重要な一翼を担っていると筆者は考えている。もっとも, 評価規約の規定要因については, 諸学説によってさまざまであろう。したがって, そうした考え方を整理することによって諸学説を比較する枠組を構築しつつ, 各学説において収益費用観・資産負債観が果たしている役割を明らかにすることが, 収益費用観・資産負債観に関する第2の研究課題になる。 本稿は, このふたつの研究課題について, 4回に分けて, 筆者の考えの概要を述べることとしたい。前2号(『三田商学研究』第60巻第5号および第6号)では, 貸借対照表能力にかかわる特別修繕引当金, および計算目的の変更にかかわる資産除去債務を取り上げ, いずれも, 収益費用観・資産負債観という枠組にはかかわりがないことを明らかにした。そこで, 本号では, 貸借対照表評価にかかわる売買目的有価証券を取り上げ, この領域こそが, 計算方式としての収益費用観・資産負債観に関与していることを論証することにしたい。 今日, 売買目的有価証券は, 制度的には, 時価で評価されることになっているが, 評価規約のこの変更に伴い, その計算方式にしても, 原価評価の場合におけるフロー主導方式としての収益費用観から, ストック主導方式としての資産負債観への転換を余儀なくされた。そのかぎりで, 売買目的有価証券の評価規約は, たしかに, 収益費用観・資産負債観という枠組にかかわっているのである。 しかし, ここで問題にされなければならないのは, この時価評価への変更および計算方式に関する資産負債観(ストック主導方式)への転換の原因である。この点については, 一般的には損益計算目的からリスク・実態表示目的への計算目的観の修正(あるいは, 平準化利益観からボラティリティ反映利益観への利益観の修正ということも考え得るが, ここでは, とりあえず, 計算目的観の修正という見方を想定しておく)に求められているようである。この場合には, 計算目的および計算方式というふたつのレベルにおける収益費用観から資産負債観への転換があったとみなされているわけである。 しかし, こうした一般的理解によっては, ①時価評価の範囲(時価評価が売買目的有価証券に限定されていることの理由), ②売却時価採用の根拠(その時価概念が, 購入時価ではなく売却時価であることの根拠), ③その損益の性質(保有損益と売却損益とが混在していることの根拠), そして④貸借対照表本体における時価評価の必要性などが, 合理的に説明できないと筆者は考えている。 この点を合理的に解決するためには, 時価評価への変更および計算方式に関する資産負債観(ストック主導方式)への転換の原因を, 伝統的な取得原価主義会計論においては, 企業の損益産出活動として価値生産活動しか想定されていない, という点に求めなければならないと筆者は考えている。つまり, 売買目的有価証券の資産カテゴリーを, 取得原価主義会計論における(価値生産活動にかかわる)費用性資産概念から, 価値生産活動とは異質な資本貸与活動にかかわる金融資産概念に転換しなければならない。端的に言えば, 取得原価主義会計論は, 売買目的有価証券の資産カテゴリーを誤認していたということである。こうした理解によれば, 上記の4個の難点も, 合理的に説明できるように筆者には思われるのである。 そして, 当面の収益費用観・資産負債観という枠組との関係について言えば, 資本貸与活動にかかわる資産概念の導入(計算対象に関する見方の修正)というこうした私見によれば, 一方, 計算目的にはかかわりがないので, 損益計算目的という計算目的にかかわる収益費用観は, そのまま維持されているし, 他方, 資本貸与活動という, 価値生産活動とは異質の損益産出活動の導入に伴い, 計算方式については, ストック主導方式という資産負債観への転換が是認されるのである。 以上のように, 売買目的有価証券は, その計算方式については, フロー主導方式という収益費用観からストック主導方式という資産負債観への変更が必要になる。その意味において, 売買目的有価証券の評価規約は, 計算方式としての収益費用観・資産負債観という枠組に関与している, ということになるのである。

論文

収録刊行物

  • 三田商学研究

    三田商学研究 61 (2), 29-54, 2018-06

    慶應義塾大学出版会

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