英米法系公法の調査研究(2) : 眠れる州際通商条項と州の課税権 Comptroller of Treasury of Marylane v. Wynne, 135 S.Ct.1787(2015)

抄録

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本稿は,アメリカの合衆国憲法1条8節3項に規定される州際通商条項に関する判例として,Comptroller of Treasury of Maryland v. Wynne (135 S.Ct. 1787 (2015)) を紹介したい。この判決は,いわゆる眠れる州際通商条項の法理に基づき,州の課税政策に対する合衆国憲法違反があると判断されたものである。  州際通商条項は,その文言をみる限り連邦議会に対し通商規制権限を付与する規定である。つまり文言上,連邦議会に対して権限を付与する積極的な規定となっているが,これに加え連邦最高裁の判例は,州の権限に対する消極的な意味をもつものとして解釈してきた。これが眠れる州際通商条項の法理である。租税制度に対しては,憲法に基づく裁判所の権限には民主主義の観点から制約が伴うと考えられている。憲法上の文言にはないにもかかわらず,連邦最高裁判所が,州の権限に対して課すこのような制約はどのような正当性を有するのか。州の課税政策に対する制約は憲法問題か,あるいは政策問題として捉えるべきかなどについて,Wynne判決の判事たちは異なる主張を展開した。法廷意見のAlito判事の見解は先例との位置づけからみると,その整合性には疑問が指摘されるが,それでもなお本稿がこの判決に注目するのは,裁判所がなすべき審査判断の観点において意義を有すると考えるからである。  制約が付されるとされる租税法の分野における裁判所の権限とは何かという点を意識しながら,本稿はWynne判決を紹介することでその問題点と可能性について若干の考察をしたいと思う。

収録刊行物

  • 比較法雑誌

    比較法雑誌 51 (1), 253-287, 2017-06-30

    日本比較法研究所

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