徳川時代の北方開発政策論―本多利明著『大日本国の属嶋北蝦夷の風土艸稿』を中心として―

抄録

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徳川時代後期の経済学者である本多利明 (1743-1821)は物流の円滑化と国内生産カの増大化に主眼を置きながら,日本の北方を含む経済圏への適用を企図した経済政策論を提起した人物であり,その経済政策思想の特質は国内開発の実践化を基調方針としながら. 対外交易論の具現化を付帯させてゆく,といった提言上の変遷過程に顕著である。この指摘は利明著『自然治道之弁』 (1795年 1月成立)以降に展開された論説についての体系的理解に基づくものであるが,それ以前の段階において,後の経済政策論に関わる知識がど のように醸成されていたのか,といった問題が課題として残されていた。その点を考慮すると,『自然治道之弁』以前に数多く成立した北方関連の著述に対する分析が必要とされる。その 1つに該当するのが,1786年1月~1788年1月の聞に著された『大日本国の属嶋北蝦夷の風土艸稿』である。同資料は松宮観山 (1686-1780)による『蝦夷談筆記』 (1710 年成立)の筆写により成立をみたものであるが,単なる複製ではなく,利明独自の見解に相当する「独言」 という文章も付記されている。その内容における主張の力点は北方領域に対するロシアの接触情報の伝達と,同領域の農業生産力に着目しながらの開発の可能性についての指摘に置かれている。その点を踏まえれば,天明年間の段階において,後の経済政策思想に影響を及ぼすこととなる知的素養が既存であったこととなる。従来の研究では看過されていたこの『大日本国の属嶋北蝦夷の風土州稿』に対する検討を通じて,経済政策論説の成立を準備する段階における思想的特質が上記のように明らかにされ,さらに,利明の北方開発に対する関心が胎動し始めた時期の上限が1786年 1月以降に引き上げ られることとなる。                                                                                                                          論文内に誤記がありましたので下記正誤表を確認ください 1)P471の脚注5)内 誤(岩下哲典(2000)『江戸情報論』 岩田書院,59ページ) 正(岩下哲典(2000)『江戸情報論』 北樹出版,59ページ) 2)P489の参考文献 誤 岩下哲典(2000)『江戸情報論』 岩田書院 正 岩下哲典(2000)『江戸情報論』 北樹出版

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