コモン・ロー文化の挑戦 : 刑法の法典化

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タイトル別名
  • The Challenge of Codifying Crime within a Common Law Culture
  • コウエン コモン ・ ロー ブンカ ノ チョウセン : ケイホウ ノ ホウテンカ

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説明

オーストラリアはコモン・ローの系統に属するが、1990年に、オーストラリア全域における刑法の統一を目的として、「模範刑法典プロジェクト」が開始された。法典化の基本的な考え方は、刑法は一般人にとって発見しやすく、理解しやすく、容易に手に入れられるものでなければならず、また民主的に作成され、修正されるものでなければならないということであった。この法典化の趣旨は、コモン・ローにおいて裁判所が発展させた刑事責任に関する原則を排除し、刑事責任に関する原則をすべて法典で表すことであった。しかし、このプロジェクトの結果作成された「模範刑法典」を範にとって刑法の法典化に取り組み始めたのは、オーストラリアの9つの法域のうち、連邦、オーストラリア首都特別地域、北部特別地域の3つだけであり、このうち連邦のみが刑法の法典化を達成した。その他の法域について見ると、クイーンズランド州、ウェスタン・オーストラリア州、タスマニア州は、このプロジェクトに先行して刑法典を有していたものの、「模範刑法典」を範にとった法典化は進められておらず、「コモン・ローの法域」に属するヴィクトリア州、ニュー・サウス・ウェールズ州、サウス・オーストラリア州は、いまだ刑法典を有していない。したがって、このプロジェクトの狙いとは異なり、オーストラリア全域における刑法の統一にはいまだ及んでいない状況である。  このように、とりわけコモン・ローの法域において「模範刑法典プロジェクト」が成功していないのは、コモン・ローの法文化と関連しているものと思われる。第一に、コモン・ローの法域においては、刑法典は、刑法制定の権限は事実上議会と裁判所で共有されているのに対して、刑法典は、議会が制定し、議会が定期的で包括的な見直し及び改正を行っていかなければならないものであり、これは多くの法域にとって気の重くなる見通しである。第二に、刑法典は刑事責任に関するすべての原則を包摂するものであり、コモン・ローの法曹は、すべての犯罪について、刑法典に規定された細かいアプローチに則って判断しなければならないが、このアプローチは、彼らにとって機械的で形式的なものに感じられるのである。コモン・ローの法域において「模範刑法典」が採用されるには、これらの課題が解決されることが必要である。

収録刊行物

  • 比較法雑誌

    比較法雑誌 47 (2), 107-132, 2013-09-30

    日本比較法研究所

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