高等教育におけるグローバル人材の育成という課題と 明治期高等教育における英語教育 : 明治期欧化下政策におけるラフカディオ・ハーンによる英語教授法を中心に

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抄録

文科省中教審答申において、近年課題化されている高等教育におけるグローバル人材の育成という課題に関して、本稿では、大きく2つの観点から論じた。1点目は、現代の特にアメリカの高等教育機関や研究機関において開発されてきている英語教授法の特性を、その現実的な効果と問題や課題のそれぞれの観点から分析し、現在の教育現場においても使用されている比較的古い教授法であるオーディオ・リンガル法との比較を通して、その共通性、それぞれの有効性、現状での課題等の諸観点から各教授法のフレームワークの問題性を論じたものである。特に近年の英語教授法としてコミュニカティブ・アプローチについては詳細に分析した。2点目は、謂わば「温故知新」的な観点から、明治期欧化政策のもとで東京帝国大学を筆頭に英語教育が求められる中、ラフカディオ・ハーンが、日本で2番目の英語ネイティブの東京帝大の英語英文学講師として就任し、その時の英語講義の講義録が当時の学生の手によって残されており、当該講義録からハーンの英語教授法を析出し、その結果、現代のグローバル人材育成論の中で英語教授法においても応用的に有用であると考えられる、緻密に計算されたと思しきハーン独自の教授法が浮かび上がってきた。本稿ではそのポイントとして大きく2点を指摘した。1点目は、現代の英語教育の現場においても必ず問題となる英米と日本との間のカルチャーギャップを逆手にとって、逆にこのカルチャーギャップを利用するような形で、その対象となる“woman”という概念を、様々な用例や角度から具体的なイメージを多用して説明することで、段階的に学生の理解を深めていくという教授法である。2点目は当時の英米の小説や詩の最重要テーマとなっていた“love”という概念について、あらゆる辞書的定義や表層的な用法、意味論を超えて、“love”という一語が孕む「語彙の深層性」にまで掘り下げて、踏み込んだ説明に到達し、一つの英単語において、驚くほど深い奥行きの存在することを学生に明示し、英語の「深淵」ともいうべき世界を学生に悟らしめようとする意図を持った教授法であり、これらハーンにおける2点の教授法はいずれも現代の高等教育現場における英語教授法の再構築を促すような内容であった。

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