後期ローマ帝国における農民逃亡と法形成

HANDLE Web Site オープンアクセス

書誌事項

タイトル別名
  • Legislation in the Later Roman Empire: the Laws on the Patrocinium Vicorum and Colonatus
  • コウキ ローマ テイコク ニ オケル ノウミン トウボウ ト ホウ ケイセイ

この論文をさがす

抄録

後期ローマ帝国は長らく, 専制君主たる皇帝によって強制的かつ独裁的に支配された国家と見なされていた。このような国家像に対しては, すでに20世紀初頭から見直しが行われている。伝統的な国家像に対する批判が展開する中で論点の1つとなったのが, 皇帝たちの発した諸勅法の位置付けである。農民逃亡に関する諸勅法の形成を分析することによって, 後期ローマ帝国の国家像を検討することが本稿の目的である。主要な史料として取り上げたのは, 農村パトロキニウム法とコロナートゥス法である。農村パトロキニウム法は土地所有農民の逃亡を, コロナートゥス法は所領農民の逃亡を扱っている。先行研究は, 両種の法の中に帝国の財政的関心という1つの原理が存在することを強調してきたが, 筆者は財政的関心だけでなく農民たちの主導と利益までもが諸勅法から読み取れることを確認し, これらの勅法を皇帝たちによる強制と独裁の証拠として理解することは出来ないと主張する。農村パトロキニウム法とコロナートゥス法だけでなく他の勅法の形成に関しても, 従来の研究では, 皇帝や官僚, 臣民のうちの誰が立法における主導的な地位を原則として保っていたのかということが探られているものの, 筆者は個別の勅法ごとに立法の主導者が異なることを主張する。すなわち, 後期ローマ帝国は, 諸階層が自らの利益を主張し合う多元的な国家であった。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ