戦後における林業技術の展開と基本法林政

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タイトル別名
  • On the Postwar Development of Forestry Techniques and the Policy on Forestry Basic Law
  • センゴ ニ オケル リンギョウ ギジュツ ノ テンカイ ト キホンホウ リンセ

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抄録

木材供給の増大を期して生産力構造の改編を第一の課題とした基本法林政は挫折した。外部条件の激変にもよるが, そのことばかりに帰することはできない。そして, 要素的レベルで内部条件が, 現時点ではじめて, むしろ成熟しつつあることにも注目しなければならない。林業生産の技術的性格に基づく産業的特質を踏まえたところの政策理論 (=新しい生産様式の展望) が要請されていると考えられる。本小論では林業の技術的構成について考察を加え, 伐出生産技術と森林改良技術の戦後段階での展開を概観した。前者は主として労働手段の発展によって労働の生産性を高め, また, 自然の制約性からの解放において大いに進歩した。しかし, 伐出林業経営自体が外在的な森林経営に強く規定されているため, 伐出生産技術の発展目的が一定せず, 森林経営の展開にふりまわされてきた側面も強い。白ろう病等の新たな労働災害が社会問題化したことも特徴の一つにあげられる。生産要素レベルで潜勢的な力能を飛躍的に高めながら, 伐出林業経営の不安定性のもとで, 結合の水準での林業資本としての生産力を高めきれない状況にある。後者の森林改良技術は, 林道等による位置の改良にかかわるものと, 育林生産等による豊度の改良にかかわるものとに大別しうるが, いずれも林業の生産基盤の整備技術であることを確認しておかねばならない。林道投資は土地に合体する性格の資本であるため, 戦後過程において公共事業として大いに推進された。そのことにより伐出生産における機械化を促進する点で成果が発揮されてきたし, また, 豊度改良の可能範囲の拡大においても機能した。森林豊度の改良技術 (森林生産技術) は, 1960年代後半までは早期育成短伐期林業技術として展開したが, その後, 集約施業を伴う良質材生産を目ざすものと極力自然の生産過程に委ねる長伐期粗放林業に両極分解する様相を呈している。しかし, いずれにしてもこれら技術は, 伐出資本と経営体的に分離した育林資本によって担われているのであるが, 育林生産過程に投下された資本は生産価格法則が貫徹しないものとしてあることを (地代法則を介してその価値が実現する), 認識しておかねばならない。森林豊度の改良技術は, 本来的に地代追求的性格を脱しえない森林経営体によって担われてきたのである。基本法林政は挫折し, 目下, 地域林業政策にと漂着している。林業を多分に森林生産過程の枠内のみにおいてとらえ, 林業生産力発展の担い手を森林経営体の中に求めた基本法林政は, 挫折すべくして挫折したのである。林業生産における育林生産と伐出生産との構造的矛盾を見据え, 林業生産力発展に向けてその矛盾を地域統一的に緩和・解決していく政策が, 現在, 必要とされているといえよう。かつて, 結合の水準で流筏林業なる林業生産様式が確立されていた。戦後過程においてこの様式は解体し, 他方で, 要素的水準で種々の生産技術が発展してきた。地域林業政策の課題は, これら発展してきた生産要素を結合し, 新たな段階の林業生産力水準を形成するところの, 新たな生産様式を確立することにある。

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