北東アジアにおける地域経済協力と経済統合の可能性

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タイトル別名
  • ホクトウ アジア ニオケル チイキ ケイザイ キョウリョク ト ケイザイ トウゴウ ノ カノウセイ
  • Hokuto Ajia niokeru chiiki keizai kyoryoku to keizai togo no kanosei
  • The possibility of northeast Asian economic integration

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抄録

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日・中・韓3国の貿易額が世界総貿易額に占める割合は1990年の11.5%から2003年の13.6%,2004年には14.3%に上昇している。3国の域内貿易は2004年現在6,398億ドルに達している。これらの3国の域内貿易比率は1991年の13.9%から1996年の19.2%へと上昇したものの,アジア金融危機の1997年,1998年には域内貿易の比率がそれぞれ18.7%,17.4%まで下がった。その後再びその比率は上昇し,2004年には24.1%まで上昇している。韓・中・日3国間貿易の相当な部分は産業間貿易と垂直的産業内貿易で形成されている。韓国と日本との貿易をみると,産業間貿易と垂直的産業内貿易はそれぞれ50.2%,35.7%を占めている。韓国と中国,日本と中国の場合も産業間貿易がそれぞれ61.9%,68.8%という構成である。産業内貿易の中で中間財中心の垂直的産業内貿易が大きくなっていることは,韓・中・日3国間で質的な分業が進んだためである。このような垂直的産業内貿易の拡大趨勢は中国の工業化が持続する限り維持されると予想される。北東アジアにおける分業関係は,かつての産業間における分業構造から,産業内分業構造へと深化してきており,この地域の経済関係はより一層緊密化している。北東アジアの域内国家間の貿易構造の変化によって域内国家間の相互依存関係が強化され,それが北東アジアFTA のような制度的な経済統合を促進する要因にもなっている。北東アジアでは経済が成長すればするほど域内市場での貿易依存度が他の地域より高く,それによる域内市場の機能的統合が進展している。経済成長と域内貿易との相関関係はいくつかの要因によって説明できるが,北東アジア地域では貿易と投資との連繫構造で説明することができる。域内貿易の成長を主導しているのは中国の経済成長による直接投資であり,この直接投資は域内中間財や資本財の貿易を誘発している。したがって北東アジアの急速な経済発展を支えてきたのは,この域内国家間の貿易と対外直接投資の増加である。対外直接投資は貿易と同様,この地域の経済統合の推進のための重要な役割を果たすと考えられる。貿易と直接投資が,補完関係にあるがゆえに北東アジアのFTA 締結は域内国家の直接投資の増加をもたらす。日・中・韓3国のFTA が締結された場合,生産要素間の補完性が高く,国家間の経済協力は各国に相当な利益をもたらすだろう。日・中・韓3国のFTA の経済効果に対して,韓国の利益が最も大きく,次いで中国,日本の順になっている。北東アジアでは産業内貿易でも水平的産業内貿易より垂直的産業内貿易のほうが活発に進行しているのが確認される。日・韓間の貿易関係は,中・韓や日・中間の貿易関係より産業内貿易,特に垂直的産業内貿易の比率が高い。それは市場統合を容易に実現させる一つの要因にもなり,この地域での経済統合が必要な段階にきていることを意味している。日・中・韓の3国は生産要素間の補完性が高く,国家間の経済協力は各国に相当な利益をもたらすだろう。日本と中国との間では日・中・韓3国FTA に対する異見が持続しているので,3国間FTA を結ぶよりも,日・韓,日・中,中・韓2国間のFTA を締結し,長期的に北東アジアのFTA を構築するのが望ましい。

唐木圀和教授退任記念号 中国経済特集

収録刊行物

  • 三田商学研究

    三田商学研究 49 (2), 33-55, 2006-06

    慶應義塾大学出版会

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