幻想から現実への昇華 : テーオドール・シュトルム『人形遣いのポーレ』における教育的意義についての一考察

書誌事項

タイトル別名
  • Transgressing Illusion and Reality: The Educational Intentions in Theodor Storm’s Paul the Puppeteer (Pole Poppenspäler)
  • ゲンソウ カラ ゲンジツ エノ ショウカ テーオドール シュトルム ニンギョウツカイ ノ ポーレ ニ オケル キョウイクテキ イギ ニ ツイテ ノ イチ コウサツ

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説明

『人形遣いのポーレ』(1874)は「現在」の時間的立場に立つ語り手が40 年前に,師であり,友人でもあった手工業職人親方パウル・パウルゼンによって語られた物語を回想し,忠実に再現しながら展開する作品である。「人形遣いのポーレ」とは,パウルゼンの蔑称ではあるが,彼にとって「人生が与えてくれた最高のもの」を象徴する。彼が語る物語は人生の披瀝であり,それは少年時代の人形芝居の一家との邂逅で始まる。パウルは人形劇が創り出す幻想的な世界に魅了され,盲目的に傾倒することで,日常の規則や秩序を見失いかける。しかし,人形芝居の舞台裏を目の当たりにし,さらに芸術を象徴する操り人形のカスペルルを破損してしまうことで,芸術の幻想的な魅力と表裏する無機質で脆弱な本質を認識する。これを機に,彼の関心は「生命ある」「愛らしい」人形遣いの娘リーザイに向けられる。とは言え,生命感と躍動感に満ちたカスペルルは芸術のアンビヴァレントな本質を象徴する存在であるにとどまらず,異なる世界に生きる者たちを引き合わせ,彼らが信頼,友情,愛情を築くきっかけをもたらす。この物語の核心は,「市民社会」の規則と秩序に拘束されて生きるパウルと,対照的に,定住と社会的慣習とは縁の薄い「放浪する芸術家」の両親のもとで育ったリーザイがそれぞれ,未知の世界の経験と真実の認識を通して,人間的な成長を遂げ,市民社会の中で愛と幸福を成就してゆく軌跡である。パウルが語る出来事には,多くの教訓的・教育的な意義が含まれ,それが自身の人生だけでなく,芸術家の悲劇的な運命との関連で明らかになってゆく。  この作品は本来,青少年を対象とした文芸誌に掲載する目的で,シュトルムに執筆が依頼されたのであるが,彼は編集者の意向に反して,読者層を規定した上で,題材を都合よく変容させることを非芸術的な行為として批判している。しかし,物語の主題や構成,語り合う人物の年齢・世代の設定からも,この作品にはすでに,若い世代に対するメッセージが多く含まれていることが明らかである。

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