中国上海地域と日本との国際産業連関構造 ― 2007 年規模別日本・中国・上海国際地域産業連関表による実証分析― (五味久壽教授・今井賢教授定年退任記念号)

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  • チュウゴク シャンハイ チイキ ト ニホン ト ノ コクサイ サンギョウ レンカン コウゾウ : 2007ネン キボ ベツ ニホン ・ チュウゴク ・ シャンハイ コクサイ チイキ サンギョウ レンカンヒョウ ニ ヨル ジッショウ ブンセキ

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抄録

バブル経済の崩壊以降,日系企業は経済活動のグローバル化や海外への生産シフトを進めてきた.とりわけ2001 年に中国がWTO に加盟してから,日系企業は中国での生産活動を拡大させている.中国に進出した日系企業は,上海を中心とする長江デルタ地域に集中している.2007 年度の『海外事業活動基本調査』(経済産業省)によれば,中国全土に進出する4,662 企業のうち1,297 企業が上海地域に立地しており,その割合は約28% にも達している. 中国に進出する多くの日系企業は,現地生産のための部品や生産設備などを日本から輸入し,完成品を日本やアメリカなどの先進国に輸出している.このような日系企業の生産拡大に伴う部品や生産設備についての対日輸入の増加によって,日本の各産業部門は生産を拡大し,付加価値や雇用が創出されることになる. 本研究では,地域間・国際間の産業連関関係に基づき,上海地域の生産から日本経済が受ける経済効果を,産業部門別および企業規模別の視点から明らかにする.ここでの「経済効果」とは,具体的には「生産誘発」,「雇用誘発」,「付加価値誘発」の三つの指標を指している.また,日中間あるいは日本-上海間の貿易拡大によって日本国内の企業が受ける影響の大きさは,企業の規模によって大きく異なるものであることから,本研究では,日本の製造業部門を企業規模別に分割した日本-上海―その他中国間の規模別産業連関表を試算し,それを用いて分析を行うことによって企業規模別の視点を取り入れている.さらに本分析では,上海と日本の関係だけでなく,上海を除く中国その他地域と日本の関係についても分析を行い,結果を比較している. 研究における主な分析結果は以下のようにまとめられる.第1 に,上海地域の日本への誘発効果は中国その他地域に比較してはるかに大きい.この点は,日系企業が集中して上海地域に進出しており,日本から上海への部品や生産設備の輸出が増加していることと整合的であった.第2 に,日本の製造業が受ける誘発効果の大きさは,生産誘発効果および付加価値誘発効果において大規模企業が大きく,雇用誘発効果については小規模企業が大きい.一方で,本研究で用いた規模別産業連関表より,日本の製造業の大規模企業と小規模企業の対中輸出額を見れば,大規模企業の輸出額が小規模企業の輸出額の2 倍を超える大きさになっている.直接的な輸出額で見れば極めて小さい小規模企業において,大企業よりも大きな雇用誘発効果が発生するという結果は興味深いものであり,雇用面で小規模企業が果たす役割の大きさを物語るものである.第3 に,製造業と非製造業の比較からは,生産誘発額については製造業合計が非製造業を上回るものの,雇用誘発効果については非製造業が大きく,更に付加価値誘発効果については,中国その他地域では製造業合計が大きく,上海地域では非製造業が大きい.また部門別の結果からは,非製造業の中でも,特に「43 交通輸送及び倉庫業」,「46 卸売・小売業」,「50 賃貸・商業サービス及び総合技術サービス業」などのサービス関連部門に大きな誘発効果が発生している.非貿易財であるサービス部門が上海地域や中国その他地域からの影響を受けて雇用や付加価値を増大させているというこれらの結果は,本研究で用いた地域間・国際間の産業連関分析モデルを利用して初めて明らかになるものである.ここでの結果は,貿易統計のように直接的に貿易額を観察する統計データだけでなく,本研究のように産業連関分析モデルを用いた波及効果分析を行い,付加価値や雇用といった観点から貿易の効果を評価することの重要性を物語るものであると言えよう.

収録刊行物

  • 経済学季報

    経済学季報 64 (4), 85-107, 2015-03-31

    立正大学経済学会

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