線維芽細胞増殖因子レセプター1アイソフォームによる細胞増殖および神経分化誘導とシグナル伝達

書誌事項

タイトル別名
  • Proliferation of L6 Cells and Ba/F3 Cells and Differentiation of PC12 Cells Induced by Alternatively Spliced Fibroblast Growth Factor Receptor 1 Isoforms
  • 線維芽細砲増殖因子レセプター1アイソフォームによる細胞増殖および神経分化誘導とシグナル伝達
  • センイ ガサイホウゾウショク インシ レセプター 1 アイソフォーム ニ ヨル サイボウ ゾウショク オヨビ シンケイ ブンカ ユウドウ ト シグナル デンタツ

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説明

線維芽細胞増殖因子(FGF)の作用は細胞特異的であり,FGFは線維芽細胞のみならず筋芽細胞の増殖を促進し,神経細胞においては分化と増殖停止を誘導することが知られている.標的細胞のFGFに対する感受性はFGFレセプター(FGFR)の発現に依存している.FGFRは4種類の異なる遺伝子が存在し,選択的スプライシングによりさらに多くのアイソフォームを生じる.FGFRは細胞外に3個の免疫グロブリン様ドメイン(Ig)を持つチロシンキナーゼ型レセプターである.FGFR1にはIgI部位(N末端側のIg)の欠損しているFGFR1Sと欠損していないFGFR1Lが存在しているが,現在までにその機能の違いは明らかにされていない.IgI部位の有無がFGFR1のリガンドとの結合特異性や,その他の因子による活性調節,また立体構造の変化によるシグナル伝達能に大きな影響を与えているのではないかと予想された.そこで著者らはそれぞれのFGFR1アイソフォームを安定発現させたクローンを用いて,FGF刺激による細胞増殖能,分化能などの機能を解析した.  ラット筋芽細胞L6に,FGFR1SまたはFGFR1Smを安定発現させると,どちらもFGF刺激により細胞増殖を促進した.しかし,FGFR1Smの変異はL6細胞においてN型糖鎖修飾に影響し,FGF特異性に違いが生じることが示唆された.さらにL6細胞ではヘパリンを添加するとFGFによる細胞増殖促進効果が抑制されることが分かった.次に,FGFR1L,FGFR1S,FGFR1Smを安定発現させたBa/F3細胞では,ヘパリンを添加したときのみFGFによる細胞増殖の促進効果が得られた.プロテインキナーゼ阻害剤を用いて細胞内シグナル伝達経路を抑制した結果から,FGFR1アイソフォームによるBa/F3細胞増殖の誘導にはRas-MAPキナーゼ経路とSrcキナーゼの活性が重要であることが示された.また,FGFR1SはJAK2キナーゼとPI3キナーゼ阻害剤により細胞増殖が完全に抑制されるが,FGFR1LとFGFR1Smはより耐性であることが示された.これらの結果から,FGFR1アイソフォームにより活性化する細胞内シグナル伝達経路に違いがあることが示唆された.  FGFRアイソフォームを発現したPC12細胞は,FGF刺激により神経突起伸長が誘導された.親株のPC12細胞ではFGF刺激によって細胞増殖速度が低下し,神経突起が伸長した.しかし,これらのクローンでは対照の細胞でみられるFGF刺激による細胞増殖の阻害は起こらなかった.特にFGFR1Sm発現細胞ではFGF刺激後3日間は増殖の促進効果が見られた.FGFR1シグナル伝達経路を調べた結果,すべてのFGFR1発現クローンにおいてFRS2,MAPキナーゼがFGF刺激により強く活性化されていた.特にFGFR1Smでは強いFRS2のチロシンリン酸化と98kDaタンパク質のチロシンリン酸化が認められた.これらの結果よりFGFR1Smの変異はFRS2やその他のシグナル伝達経路の活性化を惹起し,その結果FGFR1SやFGFR1Lより強く神経突起伸長と細胞増殖が促進されることが示唆された.  以上,本研究でIgIの選択的スプライシングにより生じるFGFR1LとFGFR1Sを発現している細胞では,FGF感受性が異なっていることが示された.またIgIの有無は細胞内シグナル伝達経路に違いを生じさせ,FGFによる細胞増殖や分化誘導に異なる作用を及ぼすことが明らかになった.

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