ポリティクスとしての世界遺産

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タイトル別名
  • ポリティクス ト シテ ノ セカイ イサン
  • The World Heritage as Politics

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抄録

近年、地域活性化や観光振興を目的に、世界遺産登録を目指す動きが広まりつつある。世界遺産は、観光客にとってはもちろん、候補地を抱える多くの国や自治体、あるいは地域住民にとって、観光資源に新たな意味と権威を与え、観光地としてのブランド力を大幅に高める効果をもたらすからである。ゆえに、世界遺産登録をめぐる動きの中には、ステークホルダーやアクターの政治的意図が避けがたく含まれる。そこで本論文では、現在、世界遺産登録をめざして活動を繰り広げている国内の各地域から、自然遺産と文化遺産における事例を一つずつとりあげ、世界遺産登録をめぐって生じる諸問題について、ツーリズム研究の視点から批判的に考察した。自然遺産登録の事例としては、2011年の世界遺産登録をめざす小笠原をとりあげた。自然遺産での登録を目指す小笠原の場合、動植物の固有種率という客観的な指標が存在するため、世界遺産登録に向けたステークホルダー間の合意形成が図りやすい。反面、対策のほとんどは固有種の保護対策に集中し、結果的に長期的な生態系の維持管理策が後手に回る結果に陥っていた。一方、文化遺産登録の事例としてとりあげた福山市鞆町(鞆の浦)では、自治体の公共事業をめぐって生活権と景観権のイデオロギー対立が起き、景観権を強調する架橋反対派によって、世界遺産の権威が戦略的に援用されていた。「人類の普遍的価値」を認定するはずの世界遺産もまた、ステークホルダー間の葛藤やイデオロギー対立と無縁ではないのである。

収録刊行物

  • 観光科学研究

    観光科学研究 (3), 57-69, 2010-03-30

    首都大学東京 大学院都市環境科学研究科地理環境科学専攻 観光科学専修

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