分収造林契約と社会的最適伐期齢 : ある森林整備法人の事例分析

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  • The profit-sharing reforestation contract and the social optimal cutting ages : A case study on a local public forest corporation.
  • ブン シュウゾウリン ケイヤク ト シャカイテキ サイテキ バッキレイ アル

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抄録

1960年代以降, 都道府県あるいは中央政府によって, 森林所有者と森林整備法人による分収造林契約が推進されてきた。今日, 分収造林契約は森林の社会的最適利用を実現するための政策手段として有用であることが知られている。一方, 森林の社会的最適利用が, 賃金率, 立木価格, 割引率, 諸個人の選好といった社会経済的なパラメータによって変化することもまた知られている。わが国では, 1960年代以降賃金率の上昇と立木価格の低迷が, 同時にそして一貫して続いている。しかし, こうした経済パラメータの変化にも関わらず, 多くの場合, 分収造林契約における契約内容が変えられることはなかった。このことは, そのような契約では分収林の社会的最適利用がもはや実現されないかも知れないということを暗示する。本研究はこの問題に対する事例分析であり, ある森林整備法人から提供されたデータと複数の割引率 (0. 035, 0. 03, 0. 025, 0. 02, 0. 015, 0. 01) によるシナリオを基に分析と考察を行う。本研究では, これらの割引率は重要な意味をもっており, それは分収林の社会的最適利用を実現するものと見なされている。その値は市中金利と比較して相対的に低いものだが, こうした低割引率を採用することのミクロ経済学的根拠として, 森林の外部性の存在と現実社会における不確実性の存在を指摘した。分析では, 分収林の社会的最適伐期齢を, 地位, 地利条件, 市場までの距離, そして将来の育林・伐出賃金率, 将来の林齢別立木価格の関数として表現し, スギとヒノキからなる644の林分に対して, 具体的に関数のパラメータを推定してこれを算出した。以上の割引率のミクロ経済学的解釈と林分毎にパラメータを設定した計測が本研究の特徴である。計算結果として, 多くの場合, 現契約における伐期齢 (スギ, ヒノキそれぞれ40年, 45年) は, 社会的最適伐期齢よりもかなり短いものであることが明らかとなった。また分収林が伐採された後, 多くの林地が放棄される可能性があることが明らかとなった。この結果を基礎に, 考察として森林整備法人が分収林の社会的最適利用を実現するための条件を検討した。分収林の伐期齢の延長と社会的最適利用を造林地所有者が認めること, また, 放置林地の管理のために, 森林整備法人は現契約以上の追加的支出を造林地所有者から要求される可能性があることを示唆した。さらに本研究では, 近年問題となっている森林整備法人の収支問題を, 分収林の社会的最適利用の観点から考察した。計算結果として, 0. 015以上の割引率では, 林分毎の伐期齢の調整を行ったとしても, 最終的な収支は赤字になるという結果が示される。さらに分収林の社会的最適利用を実現するための追加的な支出を考慮すれば, 収支を均衡させる割引率はより低くなる可能性がある。そのような低い割引率が社会的に容認されるか否かを明らかにすることが今後の課題である。もし, 不確実性の存在と森林の外部性の存在を考慮してもなお, 割引率が収支均衡割引率よりも高くなれば, 森林整備法人は, 分収林の社会的最適利用という効率性の問題と, 分収林から得られる利潤や便益の社会的分配という衡平性の問題をいかに調整するかという厚生経済学の難問に直面することになる。

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