Bacillus thuringiensis製剤の品質管理を目的とした昆虫を用いる力価検定 : その経緯と課題

抄録

昆虫病原性細菌の1種Bacillus huringiensis(以下Bと略)が報告されたのは約1世紀前で、1901年に日本の石渡がカイコBombyx moriの病死虫から分離したのが世界で最初である(Aizawa、2001)。その10年後の1911年にはドイツのBerlinerもスジコナマダラメイガAnagasa(Ephesia)kuehniellaの病死虫からBを分離した。彼の分離した菌株はその後消失したが、1927年にMaesが同種の昆虫から再び分離し、その菌株が世界の各地に配布され、Bの最初の商業的製造に利用された(Beegle and Yamamoo、1992)。Bに関する初期の研究は、Bを微生物殺虫剤として害虫防除に利用することが主な目的であったので、研究には昆虫を用いる生物検定が常に必要であった。しかし、1950年頃までに商品化されたB剤の品質管理は製剤1g中に含まれる芽胞(胞子)数をもとに行われていた。この胞子計数が品質管理に採用された主な理由は、昆虫を用いる生物検定に比べて簡便で、検定に要する日数の短いことにあったものと思われる。その後、Bの殺虫活性本体は、菌自体ではなく、菌体内に産生される結晶体(d-endooxin)であることことが明らかになり、胞子数による製品の品質管理は不適当であるとされるようになった。また、B剤は製造に用いた菌株の種類や培養条件により殺虫活性や殺虫スペクトルが異なる事実から、製品の品質管理には昆虫を用いる生物検定の方が胞子数の計測より適切であるとされた(Burges、1964)。B剤の品質管理を目的とした昆虫による力価検定は、当初国や企業によって別々の基準で行われていたので、異なるB製品の力価を比較することができなかった。1966年の国際会議において、この問題を解決することを意図して世界に共通する標準品の選定と力価検定の方法が議論された。その後は共通の標準品を用いる力価検定が各国で採用されるようになったが(Burges e al.、1967)、これで問題がすべて解決されたわけではなかった。標準品が統一されてもそれに基づく2次標準品(常用標準品)の選定と供給、標準品の保存や安定性、検定品と標準品の菌株が異なる場合の力価算定、検定昆虫が異なった場合の力価表示、標準品の更新方法などに問題が残された。

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