乳牛における発情徴候の短縮化と発情徴候を抑制しうる内分泌的機序

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  • Shortened Estrous Expressions and a Possible Endoclinological Role in Suppression Estrous Signs in Dairy Cows

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抄録

遺伝的改良や飼養管理の改善によって乳牛の泌乳量は飛躍的に増加している。その反面、乳牛の繁殖成績は急激に低下している。乳牛においては、発情を確認し、人工授精を実施することによって交配するが、今日の低い繁殖成績の主要な原因は、発情発見の困難さであると考えられる。乳牛の発情発見は、肉眼観察が基本である。もし、牛が明瞭な発情徴候を表さないと、授精の適期を判断することが困難となる。ある牛群での肉眼観察による発情観察の結果、64%の牛がスタンディング発情を示した。平均の発情持続時間は6.6±6.3h(±S.D.)であり、そのうち42%は4時間未満であった。このことは、牛群の3分の1の牛がスタンディング発情を示さないこと、発情の持続時間が著しく短縮していることを示唆している。卵胞期の基底値以上の血漿中Progeserone濃度は、発情徴候を抑制すると考えられる。発情時に、外陰部の変化のみで行動の変化を見せなかった微弱発情牛においては、スタンディングを示した牛に比べ、血漿中Progeserone濃度が有意に高かった。このことは、乳牛において、卵胞期に血漿中Progeserone濃度が基底値以上である場合、微弱発情となることを示している。黄体の無い時期の血漿中Progeserone濃度は、副腎皮質由来であることが過去に報告されている。牛においても、外因性のACHを投与することにより、血漿中Progeserone濃度が増加することが知られている。卵巣を割去した泌乳牛で25IUのACH負荷試験を行ったところ、4頭中3頭で血漿中Progeserone濃度が有意に上昇した。1回目および2回目のACH負荷試験後の血漿中Progeserone濃度は、それぞれ3.7±0.6ng/mlおよび2.1±1.0ng/mlであった。3頭の卵巣を割去した牛を用いた12IUのACH負荷試験でも、血漿中Progeserone濃度の有意な上昇が認められた。血漿中Progeserone濃度のピーク値の平均は、1.5±0.1ng/mlであり、同じ時に分泌された血漿中Corisol濃度は23.3±5.1ng/mlであった。このことから、12IUのACHもしくはそれと同等のストレスが負荷されると、副腎皮質は発情徴候を抑制しうる濃度のProgeseroneを分泌し、その時の血漿中Corisol濃度は23.3±5.1ng/mlであることが示唆された。乳牛における発情徴候を抑制する諸要因については、これまで報告があり、泌乳もその一つといわれている。10頭中7頭の乳牛において、搾乳後に血漿中Corisol濃度の有意な上昇が認められた。搾乳後の血漿中Corisol濃度の増加と乳量および搾乳時間との関係には相関が見られた(それぞれr=0.6、P<0.05およびr=0.74、P<0.01。このことから、搾乳が12IUのACH負荷試験と同様のストレスとなると、血漿中Progeserone濃度も有意に上昇する可能性が示唆された。以上のことから、乳牛の発情持続時間は短縮化しており、3分の1以上の牛がスタンディング発情を示さないこと、さらに、微弱発情牛において血漿中Progeserone濃度が高いこと、泌乳牛において急激なストレスの負荷によって副腎皮質より相当の濃度のProgeseroneが分泌され得ること、基底値以上の血漿中Progeserone濃度によって、発情徴候が抑制される可能性があることが示唆された。搾乳の刺激により副腎皮質が反応し、Corisolが分泌されることが示され、これらのことより、ストレスは、乳牛の発情徴候の抑制に重要な影響を及ぼしていることが示唆された。

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