富山県におけるスギ生育適地の空間分布推定のための数値地形解析に関する研究

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  • トヤマケン ニ オケル スギ セイイク テキチ ノ クウカン ブンプ スイテイ ノ タメ ノ スウチ チケイ カイセキ ニ カンスル ケンキュウ

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抄録

本研究は,林地生産力,土壌特性,冠雪害発生確率など,富山県におけるスギ林の生育適地判定に必要な要因の空間分布推定における,数値地形解析技術利用の有効性を検証するために行われた。数値地形解析は,数値標高モデル (digital elevation model; DEM) を用いて様々な地形因子を広域的に算出する手法である。本研究では,林地生産力,土壌特性,冠雪害発生確率などの空間変動を数値地形解析によって求めた地形因子と関連づけ,空間分布推定モデルの構築を試みた。さらに,富山県西部域のスギ林を対象に林地生産力や冠雪害発生確率に関する空間分布推定モデルの適用結果を示し,スギの生育および生産に適した林分を抽出し,その分布状況や面積を明らかにした。富山県氷見市明後谷流域 (205 ha) におけるスギ林の地位指数および表層土壌の全C量・全N量,粒径組成を調査し,これら因子の空間変動とDEMから算出した斜面傾斜,斜面方位,横断曲率,縦断曲率,開度,地形湿潤指数 (topographic wetness index; TWI) とを関連づけ,空間分布推定モデルの構築を検討した。地位指数に関する分布推定モデルは説明変数としてTWIと開度を採用し,空間変動の75%を説明した。また,地位指数に対するTWIと開度の影響度を比較すると,TWIの影響が支配的であった。本研究は,数値地形解析を利用することによって,スギ林地位指数の空間変動を制御するプロセスを明らかにでき,その空間分布の推定が可能であることを実証した。明後谷流域における土壌全C量・全N量に関する分布推定モデルは,共に説明変数として斜面傾斜と開度を採用し,全C量・全N量の空間変動の50%および53%をそれぞれ説明した。また,粒径組成の空間分布は斜面傾斜の影響を強く受けた。砂画分の割合および粘度画分の割合に関する分布推定モデルは,共に斜面傾斜を説明変数として採用し,空間変動の61%および59%をそれぞれ説明した。本研究は,数値地形解析を利用することによって,森林土壌の全C量・全N量および粒径組成の空間分布の推定が可能であることを実証した。富山県西部域 (氷見市,小矢部市,高岡市,射水市) のスギ林の地上部純生産量 (aboveground net primary productivity; ANPP) の空間分布推定を試みた。このような広域を対象とする現象の空間変動を説明する場合,地形因子だけではなく,気象因子の地域的不均一性についても考慮する必要がある。そこで,本研究では,DEMから算出した地形因子 (斜面傾斜,縦断曲率,横断曲率,開度,TWI,地形日照指数 (topographic radiation index; TRI) ) とメッシュ気候値のデータから得た気象因子 (年平均気温,年間降水量,年間最大積雪深) を用いて,ANPPに関する空間分布推定モデルの構築を検討した。分布推定モデルの構築には,統計的分類手法の1つである回帰木法 (regression tree analysis) を用いた。ANPPに関する回帰木モデルは,年平均気温,開度,TWI,TRIを説明変数として採用し,ANPPの全変動の約50%を説明した。本研究は,数値地形解析技術とメッシュ気候値データを組み合わせることによって,比較的広い範囲のANPP空間分布の推定が可能であることを実証した。富山県西部域における,冠雪被害発生確率の空間分布推定を試みた。2003年から2004年に富山県小矢部市周辺のスギ林に発生した冠雪害の発生状況を衛星データ (SPOT/HRVIR) から探索し,冠雪害の発生と地形因子 (標高,斜面傾斜,横断曲率,平均風上最大斜面傾斜 (average maximum upwind slope; AveSx),TWI) とを関連づけ,冠雪害発生確率の空間分布推定モデルの構築を検討した。冠雪害発生地と未発生地における地形因子を比較したところ,AveSx,標高,斜面傾斜について,統計的有意差が認められた。冠雪害発生確率に対するこの3つの地形因子の影響を定量的に評価し,分布推定モデルを構築するため,ロジスティック回帰分析を行った。その結果,これらの地形因子は何れも冠雪害発生確率に有意に寄与し,その影響度はAveSxが最も大きく,次いで標高,斜面傾斜の順であることが分かった。また,この冠雪害発生確率分布推定モデルは0.1%の危険率で有意となった。さらに,この推定モデルを調査エリアに適用することによって,冠雪害危険地の分布と面積を明らかにすることができた。本研究は,数値地形解析技術とリモートセンシングデータを組み合わせることによって,冠雪害危険地の分布推定が可能であることを実証した。数値地形解析技術を利用して得られたスギ林の生育適地要因の空間分布情報を地理情報システム上で統合し,富山県西部域におけるスギの生育および生産に有利な林分 (スギ生産林適地) の抽出を試みた。スギ生産林適地の抽出条件として,林地生産力 (ANPP),林道までの距離,斜面傾斜,冠雪害危険度の4つの項目を検討した。これにより,スギ生産林適地の面積を明らかにし,その分布をマップ化することができた。本研究は,数値地形解析によって得られた情報を統合することによって,森林・林業施策の計画立案に有用な情報の提供が行えることを示した。

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