アジメドジョウの人工産卵床と産卵水温

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タイトル別名
  • Artificial spawning nest and spawning temperature in the delicate leach, Niwaella delicata
  • アジメドジョウ ノ ジンコウ サンランショウ ト サンラン スイオン

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抄録

アジメドジョウ(Niwaella delicata)は、中部および近畿地方の河川の主に上・中流域に生息する日本固有のドジョウ科魚類であり(後藤,2001)、岐阜県の山間部や福井県の九頭竜川上流部、長野県の木曽地方では、古くから美味な魚として珍重されてきた(丹羽,1976)。本種は、夏季には石に付着する藻類を主として水生昆虫なども摂食すること(森ほか,1974)、秋の水温低下とともに湧水(伏流水)の礫中に潜入し越冬すること(木荘・田口,1974;Hiramatsu and Hosoya,2007)、10年を超えるような比較的長寿命であることなどが知られている(Kano,2000;渥美・石田,2002)。しかし、その産卵生態は、越冬場所である伏流水の礫中で春季に産卵が行われると見られていること(森・田口,1975a;丹羽,1976)、雄では2歳、雌では3歳で成熟し(Kano,2000)、雌の生物学的最小形は8cm前後と見られること(渥美・岡部,2001a,b)などのほかは不明な点が多い。そのため、アジメドジョウの増養殖に関しての研究が1960年代から続けられ、ホルモン接種により人工採卵の検討が行われた(鈴木,1966;本荘・田口,1974)。その後、飼育環境下で人工卵床の設置により自然産卵させることが可能となった(森ほか,1975;森・田口,1975a,b)。この自然産卵に用いる人工産卵床は、河川における産卵場所と考えられている伏流水の礫中の環境を模したものであり、玉石と礫とで構成され、水は礫中から出てくる構造であった(森ほか,1975)。さらに産卵床の構造材として礫のかわりに発泡スチロール片を用いることで、設置、取壊しの省力化、簡易化を図ることが可能となった(田口,1989)。しかし、現在までに礫を使用した人工産卵床の構造については、図示されているものの(森・田口,1975b;田口・斉藤,1982)、発泡スチロール片を用いた産卵床の構造は示されていない。また、これらの人工産卵床を用いての継続的な産卵試験の結果、アジメドジョウは9℃前後に水温が上昇した時に産卵することが確認され(森ほか,1975;森・田口,1975a,b)、秋期から10℃で一定とした場合には産卵が認められないことが報告されている(森・田口,1978)。本報では、より簡易的な構造とした発泡スチロール片使用の人工産卵床の構造を改めて記載し、この人工産卵床を用いた飼育により得られた2008年から2010年の産卵データと飼育水温から、アジメドジョウの産卵と水温の関係について考察する。

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