現代社会における農薬の役割およびその開発に関する現状について : ジェネリック品の流通実態等も踏まえた現状分析

抄録

食糧なくして人間は生存することができない。現在70億を超える地球上の人類は,生存に必要な食糧のほとんどを農業に依存している。地球上の人口は産業革命前後から顕著に増加し始めたが,20世紀後半から始まった急激な人口の増加は人口爆発と形容されるほど甚だしい。この急激に増大している人口を,1940年代後半から世界各地で展開された農業の近代化が,単位面積あたりの収穫量を大幅に向上させていることにより支えている。近代化された農業(以下,近代農業)は,農地に肥料や農薬等の資材を大量投入することによって成り立つ。奇しくも1940年前後に幕を開けた近代的化学合成農薬の発展が近代農業による食糧増産を現在まで可能とさせている。農薬を有効に利用していくには,常に新しい有効成分の開発が求められる。新規有効成分の開発には,莫大な資金と高度な技術力を必要とするため,新規有効成分を開発できるメーカーは,米国,日本および欧州の数カ国の企業にほぼ限定される。農薬は,農業生産のみでなく公衆衛生の維持・向上にも必要不可欠である。これは,蚊が媒介する伝染病がDDTの使用によって大きく抑制された事例からだけでも明らかである。現代社会において必要不可欠な農薬であるが,本質的に生物活性が高い化合物であることから,人畜や環境へ負の影響を与える事態も生じ得る。特に発展途上国(以下,途上国)では農薬の管理規制制度の実効性が乏しく,先進国では考えられない事故が発生している。このような国の一部では,安全性や効果が十分に確認されていないジェネリック品および模倣品や密輸品等違法農薬が日常的に流通・使用されている現実がある。これらは,我々の日常から想像し難い現実であるが,国際社会共通の課題として解決策を模索し続ける必要がある。

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