絹織物の嵩高性に関する研究

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タイトル別名
  • キヌオリモノ ノ カサダカセイ ニ カンスル ケンキュウ

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説明

絹織物の実用上具備すべき機能すなわち温さ,腰ならびにその他の官能量はその織物の厚さ,嵩張り,およびこれを維持する能力などに支配されるところが大きい.輸出生糸の改良に関する研究で製品研究室が分担してえた蚕品種,製糸方法など異なる42種類の生糸を用いて製織された羽二重,クレープ,タフタ,朱子,ネクタイ他など980点の織物の厚さ,重さ,圧縮率,圧縮弾性率の結果を引用し,これに1,2の実験を加えて絹織物の厚さ,見掛けの比重,圧縮特性と生糸の品質,製織方法,精錬,織物構造,布の延伸変形などの相互関係を検討して次のような結果をえた.1.織物の厚さ i)絹織物の厚さと匁付との間にはきわめて高い正の一次相関が成立する.ii)絹織物の厚さには,原料生糸を構成する繭糸の織度と正の相関,練減りと負の相関がある.特にクレープ類にこの傾向が顕著である.iii)絹織物の厚さは精錬方法の違い,精錬度合いの違いで変化する.iv)あと練織物のうち羽二重のような織物では,仕上り織物の厚さは生織物のときより12~20%減少とする.2 絹織物の見掛けの比重 i)織物の見掛けの比重は朱として織物の糸組み構造によって決まり,織物の匁付の増加にともなって増加し,その織物固有の極限値が存在する.ii)同一設計のクレープの見掛けの比重はその織物の原料生糸を構成する繭糸繊度の太いものが細いものより小さい.なお官能的にもその差は明らかである.iii)精錬方法,精錬度合いの違いは絹織物の見掛けの比重を変化させる.3 絹織物の圧縮特性 i)絹織物の圧縮率と厚さとの間には正,圧縮弾性率と厚さとの間には負の相関がある.ii)絹織物の圧縮率と見掛けの比重との間には負,圧縮弾性率とには正の相関がある.iii)同種の織物では見掛けの比重が圧縮率,圧縮弾性率に20%程度の影響を示す.4 延伸による織物の厚さの変化 i)絹織物には厚さ伸長曲線が極小をもつ場合,次第に減少する場合,漸増する場合の3形式がある.a)たてうね(たて曲り)構造の織物の場合,厚さ伸長曲線が極小をもち,極小点においては織物はたて糸,よこ糸が同程度に屈曲した構造となり,さらに延伸を続けると厚さは増加して織物はよこうね(よこ曲り)構造となる.b)たて糸,よこ糸が同様に屈曲された構造の織物では延伸にともなって厚さが増加する.c)厚さ伸長曲線が減少曲線の織物は極小点に至る前に織物の破断が発生する.朱子地はこれに属する.ii)10匁付以上の羽二重には厚さ伸長曲線に極小が認められ,匁付の増加につれて極小点の発生が遅れ,厚さの変化量も大きい.この極小点は伸度10%以内において発生する.iii)絹織物の厚さ伸長曲線の極小点はその荷重伸長曲線の初期の勾配が急激に増加する点の付近に存在する.以上の結果から嵩高性に富む絹織物を製造するには構成繭糸繊度の太い生糸の選択,分繊を良好にする精錬方法,織物の構造に応じた製布工程の張力などに留意して,織物の見掛けの比重を小さくする設計とともに,これと相反する関係にある圧縮弾性率を増加させる特定の原料生糸ならびに織物の加工方法を見いださなければならない.

収録刊行物

  • 蠶絲試驗場彙報

    蠶絲試驗場彙報 (81), 59-111, 1963-02

    つくば : 農林水産省蚕糸試験場

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