資産負債観の説明能力 : 資産除去債務(2)

書誌事項

タイトル別名
  • シサン フサイカン ノ セツメイ ノウリョク : シサン ジョキョ サイム (2)
  • Shisan fusaikan no setsumei noryoku : shisan jokyo saimu (2)
  • Significance of asset and liability view: asset retirement obligations(2)

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抄録

type:text

前号においては, 資産除去債務に関する資産負債両建方式を採用した場合, 計算対象を合理的に説明できないことを明らかにした。つまり, まず第1に, 資産除去債務勘定について言えば, ①そのオンバランス化の根拠, ②当初入帳額を割引現在価値で評価することの根拠, そして③当初入帳時以降における「支払利息」計上の根拠が, 存在しないのである。 第2に, 資産負債両建方式を援用した場合, 制度的には, 資産除去債務勘定の当初入帳額を購入した設備資産の取得原価に算入しなければならないが, この設備資産勘定についてみれば, ④設備資産の取得原価に算入することの根拠, そして⑤取得原価算入部分につき, 減価償却を計上できる根拠(価値移転現象が認められることの根拠)が, やはり存在しないのである。 そして最後に第3として, 有害物質の除去を行なった時期における除去労働用役の購入・費消の事実(さらには有害物質を生ぜしめたという事実)が, 合理的に説明されていないのである。これらの事実は, 資産負債両建方式における計算対象の把握の仕方が妥当ではない, ということを示唆しているのである。 本号では, その結果を承けて, 資産負債両建方式が, 計算目的の側面に及ぼす影響を検討することとしたい。資産負債両建方式は, 今日, 一般的には, 負債の全貌表示(さらには, 資産・負債のリスク・実態表示)を指標にして, 現行会計に導入されてきたとみてよいであろう(もっとも, 資産負債両建方式を, 収益費用利益観と資産負債利益観との混合利益観とみる考え方もあるようであるが, そうした主張については, 改めてVIIで取り上げることとしたい)。その場合, 現行会計の計算目的は, 言うまでもなく処分可能利益という損益計算であるから, そうした資産負債両建方式を現行会計に導入することなど可能なのであろうか。資産除去債務事象に関してだけ資産負債両建方式の導入を強行した場合, 現行会計の全体としての計算目的は, どのように考えられるべきなのであろうか。 今日, 一般的には, 資産除去債務に関する資産負債両建方式は, 現行会計の枠組に当然のごとくに収まり得るとみなされてしまっている, と言ってよいのではないだろうか。しかし, 本当に, そうなのであろうか。 資産除去債務に関する資産負債両建方式の導入によって, 現行会計の損益計算という計算目的が崩壊している, といった事態が生じていることなど, 絶対にないのであろうか。少なくとも, そうした事態の生起にまで目配りした議論を, 筆者は寡聞にして知らない。そこで, ここに, 検討しなくてはならないが, その点をIVにて行なう。 結論的には, 資産除去債務勘定に関して生じた「支払利息」が合理的に説明できないこと, および資産除去債務相当額の設備資産の取得原価への算入部分に関する減価償却(価値移転額)を合理的に説明できないこと, の2点により, 資産除去債務に関する資産負債両建方式は, 現行会計における損益計算という計算目的を毀損している, というのが筆者の考えである。 前号での計算対象についての検討, および今号での計算目的についての検討によれば, 資産除去債務にかかわる一連の事象を合理的に処理するためには, 次のような考え方をとらなくてはならない。すなわち, 前者の計算対象の側面からは, 有害物質の除去にではなく, 有害物質の生成に関心をもつこと, そして後者の計算目的の側面からは, 負債の全貌表示(資産・負債のリスク・実態表示)にではなく, 損益計算に関心をもつことが, 必要になるのである。そこで, あくまで試論ではあるが, Vにおいて, そうしたスタンスに基づいた処理方法を, バッズという概念を形成することによって提示したい。

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