雇用・賃金統計に見る先進各国共通な流れと日本の特異性

書誌事項

タイトル別名
  • コヨウ・チンギン トウケイ ニ ミル センシン カッコク キョウツウナ ナガレ ト ニホン ノ トクイセイ
  • Koyo chingin tokei ni miru senshin kakkoku kyotsuna nagare to Nihon no tokuisei
  • Commonalities in employment, wage and inequality data of developed countries : Is Japan unique?

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説明

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本稿の目的は, 国際比較可能な雇用統計・賃金統計を使って, 日米英独仏における労働市場の動きについて検討することである。この分析の結果, 次の14点が明らかになった。(1)2000年以降, 5か国における経済成長率は, 大きく低下し, それに呼応して, いずれの国においても雇用者数の伸びが低下した。どの国においても, 製造業では雇用は減少したが, 医療・福祉分野において雇用は増えた。(2)各国の雇用調整の速度を計測すると, ドイツを除く, いずれの国においても, 近年, 調整速度は早まっている。(3)平均労働時間の動きを見ると, 日本・イギリス・ドイツ・フランスでは過去20年間で労働時間は大きく低下したし, アメリカでも若干短縮した。(4)有期契約労働者比率の上昇は日本, ドイツ, フランスで見られる。(5)アメリカ, イギリス, ドイツ, フランスでは名目賃金, 実質賃金ともに以前に比べれば, 上昇の幅は小さいものの, 上昇を続けている。これに対し, 日本では名目賃金において大きな低下を示しており, 実質賃金でも若干の低下が長期間にわたり続いている。(6)賃金と労働生産性の伸びを比較してみると, アメリカ, 欧州諸国では労働生産性の伸びを賃金の伸びが上回っているのに対し, 日本では逆に生産性の伸びを賃金の伸びが下回っている。(7)わが国における平均賃金の低下は, 一般労働者の賃金の若干の低下とともに, パート労働者の増加によって生じている。(8)雇用の伸び率の低下と賃金の抑制は, イギリスを除く4か国で労働分配率の低下をもたらした。(9)日本やドイツでは生産年齢人口が減少した一方, アメリカでは, リーマンショック後女性や若年層において, 就業意欲喪失効果により非労働力化が進展し, 労働力率が低下した。また5 か国いずれの国においても, 高齢者の就業率は上昇しており, アメリカを除く4か国で, 女性の労働力率は上昇しているが, 若年層の労働力率は低下した。(10)5か国いずれの国においても, 大きさに差があるものの, 所得格差の拡大傾向が観察される。(11)所得階層トップ1%の人が1国全体の所得に占める比率は, とくにアメリカとイギリスにおいて大きく上昇している。(12)平均賃金格差を属性間で比較すると, 学歴間賃金格差は日本を含むいずれの国においても拡大する傾向にある。(13)男女間の賃金格差は, いずれの国においても縮小する傾向にある。(14)日本における, 同じ年齢, 学歴についての個人間の賃金格差を見ると, 近年, 拡大傾向が観察される。

論文 挿図表

収録刊行物

  • 三田商学研究

    三田商学研究 58 (1), 15-36, 2015-04

    慶應義塾大学出版会

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