TP53変異と進行漿液性卵巣癌の予後との関連

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  • TP53 ヘンイ ト シンコウショウエキセイ ランソウガン ノ ヨゴ ト ノ カンレン
  • The Relationship between TP53 Mutations and Prognosis in Advanced-stage Serous Ovarian Cancers

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抄録

癌抑制遺伝子 TP53は, ヒト悪性腫瘍において最も変異頻度の高い遺伝子のひとつであり, TP53変異によりp53の機能が失活すると, 下流遺伝子の転写活性化が障害され, 腫瘍形成や癌進行の原因になると考えられている. 上皮性卵巣癌においてTP53は約47%で変異を認め, 腫瘍の進行 (stage), 悪性度, 化学療法抵抗性, 予後との関連が報告されている. また上皮性卵巣癌のうち, 50%以上を占める漿液性卵巣癌は, 他の組織型に比べ非常に急速に進行し, その多くが stage III/IVと進行して発見されるため, 予後の不良な疾患である. 5年生存率では, stage I症例で90%以上であるのに対し, stage III/IV症例で30%程度であり, その予後の改善が求められている. 今回, 我々は進行漿液性卵巣癌におけるTP53変異と予後との関連性について検討した. まず, 漿液性卵巣癌38症例 (国際進行期分類 I期 : 8症例, III/IV期 : 30症例) について, Direct Sequence法を用い, 16症例 (42.1%) でTP53変異を同定した. 進行期別のTP53変異の頻度は stage Iで2症例 (25.0%), stage III/IVで14症例 (46.7%) と進行漿液性卵巣癌症例で多い傾向にあった. TP53変異の頻度, 種類, 部位に関しては, TP53変翼の国際デ-タベースによる報告と同様の結果であった. 次に, 進行漿液性卵巣癌30症例をTP53変異群 (14症例) とTP53正常群 (16症例) の2群に分け, 臨床病理学的因子について比較検討した. 発症年齢, 進行期, 治療前CA125値, 腹水細胞診, 手術完遂度, 悪性度に2群間で有意な差を認めなかったが, TP53変異群はTP53正常群に比し予後不良であった (ログランク検定 : 無増悪生存期間 p = 0.045). そこでTP53変異に伴う遺伝子発現変動が進行卵巣癌の予後にどのように関与するのか検討するため, 進行漿液性卵巣癌30症例についてマイクロアレイ解析を行った. 対象として正常腹膜組織10症例を用いた. まず, 卵巣癌組織と正常腹膜組織の遺伝子発現プロファイルを比較し, 卵巣癌に特異的な発現パタ-ンを呈する5708遺伝子を抽出した. 次にTP53変異群とTP53正常群を比較し, 5708遺伝子から, TP53変異に関連する301遺伝子 (TP53正常群に比し, TP53変異群で2倍以上発現が上昇している132遺伝子, TP53変異群で1/2倍以下に発現が低下している169遺伝子) を抽出した. TP53変異関連遺伝子群について, その生物学的意味付けのために Gene Ontology 解析を行った. その結果, multicellular organismal development, multicellular organismal process の2つのカテゴリーが統計学的有意に頻度の高い生物学的プロセスとして特定された (q< 0,05). また, 301遺伝子についてパスウェイ解析を行い, IL6を中心とした分子間ネットワークを同定した. 301遺伝子の個々の遺伝子発現と予後との関連についてコックス比例ハザード解析を行い, 無病増悪生存期間と有意な関連を示す62遺伝子を抽出した. 62遺伝子についてパスウェイ解析を行った結果, IGF1を中心とした分子間ネットワークが抽出された. 以上の結果より, 進行漿液性卵巣癌においてTP53変異は予後不良因子であり, TP53変異に伴うIL6~IGF1シグナル経路が進行漿液性卵巣癌患者の予後に関連している可能性が示唆された. 今後 TP53~IGF1シグナル系の遺伝子制御が進行漿液性卵巣癌の治療戦略の標的となる可能性があり, 更なる解明が必要であろう.

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