『不知火海沿岸』、血を噴きあげる怒りの街へ : 初期水上勉論 第三回

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タイトル別名
  • The Coast of Shiranui-Kai,Toward the Boiling Town with Rage : MINAKAMI Tsutomu at His Early Stage (3)

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抄録

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短篇推理小説「不知火海沿岸」(一九五九年一二月)は、社会的な視野をもつ書下ろし長篇推理小説『霧と影』(同年八月)でデビューしたばかりの「新人」水上勉が、テレビで水俣病の今をめぐるドキュメンタリー番組『奇病のかげに』(同年一一月)を観てすぐ、水俣に赴き二週間ほどの取材の後、一気に書きあげた作品である。数か月後に刊行された書下ろし長篇推理小説『海の牙』(一九六〇年四月)に発展的に吸収されたというのが通説で、これまで単独で論じられたことはない。  しかし、現実の水俣奇病問題も、フィクショナルな殺人事件も解決のないまま終わる小説「不知火海沿岸」は、推理小説を書きだして間もない、解決を不可欠とする推理小説的ストーリーラインに魅力を感じつつも、それを絵空事とうけとめもする水上勉が、水俣病と新たな社会的弱者の惨憺たるありさまに接して、社会的弱者の強い願いと激しい怒りによりそい「血を噴きあげる怒りの街」を結末に出現させた、自信作であった。

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