評価規約の規定要因 (2) : 斎藤学説

書誌事項

タイトル別名
  • ヒョウカ キヤク ノ キテイ ヨウイン (2) : サイトウ ガクセツ
  • Hyōka kiyaku no kitei yōin (2) : Saitō gakusetsu
  • Valuation rule and two conceptual views of earnings : case of Saito theory (2)

この論文をさがす

抄録

type:text

斎藤学説は,企業価値評価に由来する事業資産・金融資産分類と,純利益算出にかかわる配分・評価分類というふたつの資産分類の上に構築されている。そして,そのふたつの資産分類は,いわば等価的同格的な関係にあり,したがって,その各資産分類から独自に評価規約が定められる点に,その特質が認められるのである。そこで,このふたつの資産分類の等価的同格的関係を同位関係とよび,⇔という記号で表現すれば,斎藤学説は,[ (事業資産・金融資産分類→ 評価規約) ⇔ (配分・評価分類→ 評価規約) ]とでもシェーマ化できるであろう ([ (事業資産・金融資産分類⇔ 配分・評価分類) → 評価規約]とシェーマ化することもできよう) 。 斎藤学説をこのようにシェーマ化すれば,その論点にしても,おのずと,事業資産・金融資産分類の会計への援用可能性,配分・評価分類の妥当性,そして事業資産・金融資産分類と配分・評価分類との併存可能性という3点に整理できるであろう。 まず第1の論点であるが,事業資産・金融資産分類は,企業価値評価にとり便宜な資産分類であるから,会計の計算目的が企業価値評価あるいは企業価値評価にかかわる損益計算 (以下では,企業価値差額としての損益計算と言う) にあるのなら,会計に導入することも,当然認められよう。しかし,斎藤学説においても,純利益算出と企業価値評価 (企業価値差額としての損益計算) とは峻別されており,その上で,純利益算出が,会計の計算目的とされているのである。そうであれば,事業資産・金融資産分類を会計に援用することなど,そもそも可能なのであろうか。まずもって,そうした疑問が湧出するのである。 次に第2の論点であるが,今日,配分・評価分類は,現行会計実践を実質的に規定していると一般にみなされているが,それだけに,逆に,その妥当性については,さしたる議論がなされていない,と言ってもよいのではないだろうか。とかく制度を正当化しがちな会計理論においては,ありがちなことであるが,しかし,それでよいとは思われない。配分・評価分類が本当に理論的に成立し得るのかどうか,白紙に立ち戻り検討することが必要なのではないだろうか。 最後に,第3の論点であるが,事業資産・金融資産分類と配分・評価分類とが,等価的同格的な関係にあり,しかも,その計算目的を異にしているとしたら,両分類は,単に混在していることになり,両資産分類を含む斎藤学説は,全体として整合的な理論体系になっていないのではないか,といった疑問があっても不思議ではない。そこで,この点を検討しなくてはならない。 以上を纏めれば,次のようになる。 [図表] 第1の論点については,本号および次号において取り上げる。この点についても取り上げるべき論点は多いが,ここでは,次の5 点に絞って検討する。  ①事業資産・金融資産の評価規約の,現行会計実践に関する説明可能性  ②企業価値差額としての損益計算と会計的損益計算との相違に関する認識の欠如  ③損益の質的相違の識別可能性  ④現金項目の位置づけを巡る事業資産・金融資産分類の論理的成立可能性  ⑤事業資産・金融資産分類の,会計への導入の根拠 このうち,①・②は,評価規約という量的側面に関する問題点,③は,損益の具体的内容の特定という質的側面に関する問題点であり,両者は,現行会計実践の合理的説明にかかわっている。それに対して,④は,会計の視点よりする,事業資産・金融資産分類自体の論理的な成立可能性にかかわっている。 結論的には,事業資産・金融資産分類は,損益計算上の論理的な成立可能性 (④の論点),および現行会計実践の合理的説明可能性(①・②・③の論点)のいずれにおいても,疑問があると筆者は考えている。そうであれば,斎藤学説が事業資産・金融資産分類を会計に導入したことの根拠が,問われなければならない。その点を,⑤において検討する。

論文

収録刊行物

  • 三田商学研究

    三田商学研究 62 (3), 31-54, 2019-08

    慶應義塾大学出版会

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ