筋ジストロフィー児の自立活動の指導についての一考察

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  • A Consideration on the Guidance of Self-reliance Activities (Jirits-Katsudou) for Children with Muscular Dystrophy

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抄録

進行性の難病である筋ジストロフィー(筋ジス)患者数は、厚生労働省によると推 計約25400人*1で、前野によれば、「筋ジス中最も多いDuchenne型筋ジストロフィー (Duchenne muscular dystrophy;DMD)は男子出生3,500~5,000人に1 人の割合で 小児期に発症し、成人前に歩行不能となりやすい」*2とされている。このように、小 児期の病気であることから、日下によれば、特別支援学校(病弱教育)の在籍者の病 類別では「心身症など行動障害」、「重度・重複など」に次いで、「筋ジスなど神経系 疾患」が、14.4%を占めている。*3また、文部科学省(2013)によれば、特別支援学 校(肢体不自由教育)の運動障害の発症原因では、脳性麻痺に次ぐ割合で、4.5%を 占めるものが筋原性疾患であり*4、国立特別支援教育総合研究所は、筋原性疾患で多 くみられる疾患として筋ジスを挙げている*5。西牧によれば、1964(昭和39)年に、 厚生省(当時)が文部省(当時)に対して国立療養所における進行性筋萎縮症患者の 教育依頼を出して以来、筋ジスは「日本の病弱教育の成立期において、結核と並んで 病弱教育の重要な対象疾患であり、その病弱養護学校成立史上、重要な位置を占めて きた」*6とされている。  特別支援学校の教育課程では、障害による学習上又は生活上の困難を主体的に改 善・克服するための指導領域として自立活動が設けられている。特別支援学校学習指 導要領解説自立活動編においては、筋ジスに関する具体的な指導内容例を、6 区分27 項目の内の3 区分3 項目に示している*7。上述のように、特別支援学校(病弱教育)、 特別支援学校(肢体不自由教育)において、筋ジスが長期にわたり一定の割合を占め、 多くの実践例があったことを踏まえると極めて、簡潔な要点の記述といえる。近年筋 ジス児の多くは、知的障害が無いと把握されてきたことから、その教育の現場は、「特 別支援学校から小中高校にシフトしており、病弱教育の中で、長期間にわたって特別 支援学校に設備や人材を投入し、築き上げてきた筋ジスに関するノウハウが失われて しまう危機にある。」*8と言われている。特別支援学校学習指導要領解説では、学校 現場の多様な障害に対応するためには、現状以上の記述は難しく、指導に当たる教員 は、他の指導事例や参考資料を求めていくことが望ましいものではあろう。しかし、 前野がいうように、「筋ジスのリハビリテーションについては、筋ジスが希少疾患か つアウトカムの評価法が確立されていないため、エビデンスの蓄積が困難」*9という 状況などもあり、多くの情報に容易にアクセスできるとはいえない実態がある。  このように通常の学級から特別支援学校を含めて筋ジスの子どもの指導に当たる教 師には、指導に関する情報が不足している実態がうかがわれる。そこで、指導上の参 考として、学習指導要領の解説の記述を元に、疾病情報や、リハビリテーション、看 護関連の資料を踏まえて、筋ジスの子どもの自立活動の指導の在り方について考察を 試みたい。

収録刊行物

  • 教育学論集

    教育学論集 (73), 295-308, 2021-03-31

    創価大学教育学部・教職大学院

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