九州におけるウマバエ症の疫学的研究 : と畜体についての調査成績

書誌事項

タイトル別名
  • Epidemiological studies on gasterophiliasis in Kyushu, Japan : results of surveys on carcases
  • キュウシュウ ニ オケル ウマバエショウ ノ エキガクテキ ケンキュウ ト チクタイ ニ ツイテ ノ チョウサ セイセキ

この論文をさがす

説明

昭和43~46年,九州内の熊本・都城・別府・飯塚の4と畜場において合計1,009頭のと殺馬の胃(十二指腸起始部を含む)を検査し,ウマバエ幼虫の寄生状態を観察して以下の知見を得た. 1) 調査馬合計1,009頭中309例にウマバエ幼虫の寄生を認めた.すなわち平均寄生率は30.6%である.年令別にみると2才以下の寄生率は28.2%,3~6才は23.7%,7~10才は30.1%,11~14才は40.6%,15才以上は55.6%であり,一般に年令の進むほど寄生率は高くなる. しかし2才以下の若令馬にも少なからざる寄生を認めた. 2) 胃のうち前胃部およびヒダ状緑付近に寄生する種類は Gasterophilus intestinalis で,胃の幽門部および十二指腸起始部に寄生するのは Gasterophilus nasalis である. 前者は寄生例全体(309例)の91.6%に見られ,後者は58.9%に認められた. 両種類が同時に寄生するものは50.6%であった.なお Gasterophilus haemorrhoidalis は1例も認めなかった. 3) 胃と十二指腸を合わせた寄生数(概数)は,50匹以下が寄生例全体(309例)の56.6%で半数以上を占め,51~300匹が38.2%,301匹以上のケースは5.2%であった. ただし寄生数は季節による変動が著しく,一般に冬・春季に多数寄生するものも夏・秋季には激減する. 4) 九州では熊本その他で馬肉を好んで食する地域がある. 九州の馬の飼育頭数は漸減の傾向にあるので,いきおい食肉用の馬をわが国の馬の多産地である北海道から搬入する. その数は年々増加し,熊本市食肉センターでは昭和45年におけると殺馬の約60%は北海道馬で占められた. このような状況下, 上述の調査馬(1,009頭)のなかには北海道で飼育され, ウマバエの感染が北海道で起きたことの明白なものが相当多数含まれている. 5) すなわち, 1,009頭の調査馬の産地区分は九州産が503頭,北海道産が402頭,その他(中国・四国など)16頭,産地不明88頭であった. このうち北海道馬と九州馬のウマバエ寄生率を比較すると,前者が55.2%とすこぶる高値であるのに対し,後者(九州馬)のそれはわずか8.7%で著しく低い. 次に九州内の各県(宮崎・鹿児島・大分・熊本・長崎・福岡・佐賀)の間には著差は認められない(県によっては例数が少なくて比較不能).要するに九州馬そのもののウマバエ寄生率は一般に低いが, 外部から搬入された馬(北海道馬)によって平均寄生率がかなり上昇するという疫学上特異のパターンを示している. 6) 北海道馬にウマバエ寄生が多く九州馬に少ない理由の第一は, 北海道馬は放牧の機会が多いのに対し九州馬の飼育形態は主として舎飼いであるためであろう. ウマバエの発育環からみて野外における感染のチャンスが多いのは当然である. 第二の理由としてウマバエの発育の各ステージ(卵のふ化,サナギの羽化,成虫期など)を通じ,外界の気温の高いところよりも東北・北海道のごとき比較的低温な地方が適しているためと思われる.

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ