自殺の遺伝学的研究の今

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  • GENETIC STUDY OF SUICIDE

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説明

本邦における10~54歳の死因上位を自殺が占める.今般のCOVID19パンデミックの影響による経済状況の悪化・社会的孤立・心理的ストレス等が引き金となり,自殺率のさらなる悪化が強く懸念される.個人が自殺に至る背景は失業・貧困・病苦・いじめなど様々であるが,家族・双生児・養子研究から自殺には生来の遺伝負因が存在するといわれてきた.我々は遺族の深いご理解の下,世界最大規模 1 ,250例超の自殺者血液試料を保有し,精力的に自殺の遺伝学的研究に取り組んできた.最近,日本人自殺者746名(vs対照者としてバイオバンクジャパン14,049名)のゲノムワイド関連解析(GWAS)を行い,これまで疫学レベルでしか示されてこなかった「自殺の遺伝負因」のエビデンスをGCTA解析やポリジェニックリスクスコア(PRS)解析等により世界で初めて実験科学的に証明した.同研究で日本人自殺について,遺伝負因が強い統合失調症や双極性障害に匹敵する約40%という一塩基多型由来遺伝率を検出した.さらにGWASデータから算出できる個人ごとの自殺PRSが,個人の自殺リスクを予測できる可能性を見出した.今後,自殺GWASのサンプルサイズが向上していくことで,強いストレス下の自殺リスクに寄与する遺伝子領域の同定や,PRS算出による確度の高い自殺リスク判定が可能となることが強く示唆される.

収録刊行物

  • 横浜医学

    横浜医学 72 (2), 83-87, 2021-04-30

    横浜市立大学医学会

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