ビジネスサイクルが企業格付の変動に及ぼす影響について (ファイナンスの数理解析とその応用)

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  • ビジネスサイクルが企業格付の変動に及ぼす影響について
  • ビジネスサイクル ガ キギョウ カクズケ ノ ヘンドウ ニ オヨボス エイキョウ ニ ツイテ

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抄録

本研究では,日本のクレジット市場で観測可能なファクター[マクロ要因および過去の信用イベント発生実績(格付機関による発行体格付の変更件数,企業の倒産件数)]のほか,市場で直接観測することができないあるファクター(それをfrailtyと名付ける)の存在を仮定し,これらを考慮した信用イベント(格上げ・格下げ・デフォルト)の発生しやすさ(発生強度)を表すモデルを提案する.信用イベントのうち,格上げ・格下げの発生強度を表すモデルのパラメーターは,95%の有意水準で統計的に有意であるとの結果を得た.またアウトオブサンプル期間(2013年1月1日—2019年3月31日)についてもほぼ同様の結果が得られた.また信用イベントが格下げである場合について,①全てのファクター,②マクロ要因のみ,③マクロ要因+過去の信用イベントの影響のみ,④マクロ要因+frailtyのみ,で構成される各モデルについて,パラメーターの推定値および時間変更後の強度に対するKolmogorov-Smirnov検定を実施した結果,「マクロ要因」「過去の信用イベントの影響」および「frailty」の全ファクターを含むモデルはその適合度に高い有意性が見られた.特に,過去の信用イベントの影響およびfrailtyはともに,モデルのパラメーターの推定値に大きく影響を及ぼすと考えられる.次に,総与信・GDP比率に代表される「信用サイクル」の変動要因を探るため,「過去の信用イベントの影響+frailty」と信用サイクルとの関連性について,1)レジーム・スイッチモデルによる,「過去の信用イベントの影響+frailty」と信用サイクルのレジーム推移の比較,2)インパルス応答関数による,信用サイクルの構成要素にショックを与えた場合における「過去の信用イベントの影響+frailty」に及ぼす影響の有無,および3)信用サイクルを構成する要素(GDP・総与信額)を状態空間モデルで表現した場合における各成分[水準level)・傾き(slope)]と「過去の信用イベントの影響+frailty」との間で,グレンジャーの意味での因果性の存在の有無,の3点から検証を行なった.まず1)については,総与信・GDP比率のレジームの推移と「過去の信用イベントの影響+frailty」のそれとは似通った傾向を示した.次に2)については,GDPの水準成分,総与信額の傾き成分および総与信・GDP比率の水準成分・傾き成分が及ぼすショックは,「過去の信用イベントの影響+frailty」に長期的に影警を及ぼす点が示された.最後に3)については,GDPの水準成分,総与信額の傾き成分および総与信・GDPの水準成分・傾き成分について,「過去の信用イベントの影響+frailty」とグレンジャーの意味での因果性が見られた.

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