香りと詩的表現

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タイトル別名
  • カオリ ト シテキ ヒョウゲン
  • The Way of Incense and Poetic Expression in Japanese

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抄録

type:Article

世界各地に香りを楽しむという文化はあるが、日本においては「香道」という香りを鑑賞する様式が独自に確立された。本稿では香道について概説した後、認知科学の視点から香道における香りの鑑賞方法を分析する。嗅覚は個人差が大きく、他者と自分がある天然の香りを嗅いで、完全に同じ感じ方をしているかを確かめることは困難である。香道の香りの鑑賞方法は、集団においても香りを個人的に聞け(嗅げ)、個人のなかでの同一性の判断が完結できる仕組みとなっており、それは嗅覚の特性を鑑みても理にかなっていることがわかった。また香道で使われる香りの対象である香木の命銘や香席においてテーマになる言語表現は伝統的に和歌などから引いた詩的なものであるが、それは人の再認記憶を向上させるために有意味な方法であることが理解された。本稿ではさらに香道における香りについての言語表現を観察し、分析したことから日常言語における詩的表現機能の一端についても明らかにした。結果「詩的表現とは今ここではない時空を想起させる言語表現であり、ある言語表現が詩的表現であるか否かは発信者または受信者の背景知識に依存する」と定義した。香道の詩的表現により構築される時空は緩やかに限定された仮想世界であり、その仮想世界を基盤として他者と香りについて語り合うことが可能となるのである。

identifier:京都工芸繊維大学 学術報告書,第14巻,2022.02,pp.49-70

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