『万葉集』93番歌および94番歌における第三句の「通態的」機能―作品受容を通した翻訳学的考察―

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タイトル別名
  • 『 マンヨウシュウ 』 93バンカ オヨビ 94バンカ ニ オケル ダイサンク ノ 「 ツウタイテキ 」 キノウ : サクヒン ジュヨウ オ トオシタ ホンヤクガクテキ コウサツ
  • The "trajective" function of the third verse in the poems 93 and 94 of the Man'yôshû ‒A Translation Study through the History of Reception‒

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抄録

type:Article

本論は、『万葉集』第二巻93番歌・94番歌の修辞学的効果のフランス語翻訳を、翻訳学的観点から模索することを目的とする。天智朝に歌われたこれらの相聞歌は同時に序歌でもあり、外界の事物(この場合は「櫛箱」)を描写する前半部(「序詞」と呼ばれ、前半の二句あるいは三句からなる)と、歌人の心情を表現する後半部からなる。序歌にはこれら両部分の橋渡しとなる「つなぎ詞」が見て取れ、93番歌の場合は「掛詞」、94番歌の場合は「音の反復」がその機能を果たす。現代日本語訳を問題とする場合、こうした要素は日本人にとって自然な形式である。しかし、フランス語翻訳を考える場合、これら日本語特有の形式を再現することは不可能である。そのため、序歌の第三句(93番歌では「あけていなば」、94番歌の場合は「さなかづら」)に着目したい。その分析により、歌の前半部と後半部の対応関係が、「つなぎ詞」だけではなく、この第三句によっても実現されることを示したい。実際、「つなぎ詞」が景物部と陳思部を結びつける一方で、この第三句はいわば「プリズム」の機能を果たし、外界の事物に心情を投影すると同時に、反対に心情に事物を映し出すのである。相反する二局間の運動を意味する「通態性」(オギュスタン・ベルク)の概念を援用し、景物部における「事物」と陳思部における「心情」の間の往復運動を導くこの第三句を「通体部」と呼びたい。「通体性」を初期万葉に見られる詩的構造の根幹として認めることにより、既存の万葉歌の分析を深めるのみならず、新たな解釈の地平を切り開くことを期待したい。

identifier:京都工芸繊維大学 学術報告書,第14巻,2022.02,pp.1-26

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