現行犯逮捕をめぐる刑法解釈論の諸問題

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タイトル別名
  • Strafrechtsdogmatische Probleme über die vorläufige Festnahme

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説明

本稿は、現行犯逮捕をめぐる刑法解釈論の問題のいくつかを、ドイツ法を参照しつつ検討する。  まず、「現行犯人」の意義について、私人逮捕の公的性質とリスク分配の公平性を考慮して、逮捕時において客観的に濃厚な嫌疑が認められれば足りるとするドイツの「嫌疑説」を支持する。この説は、わが国の通説・判例の立場とほぼ重なるものである(一)。  次に、逮捕者に生じうる問題について、客観的には現行犯逮捕をなしえないにもかかわらず、逮捕者がなしうるものと誤信して逮捕した場合については、逮捕者が犯罪と犯人の明白性を基礎づける事実を誤認したときは、事実の錯誤として故意不法を阻却するが、逮捕者がそのような事実を認識しつつ、それでもなお逮捕しうると誤信したときは、違法性の錯誤として故意不法を阻却しない。また、逮捕の手段が社会通念上必要かつ相当と認められる限度を超えた場合については、「過剰逮捕」すなわち「過剰正当行為」ともいうべき類型を考えて、刑法三六条二項の準用を認めるべきである(二(1))。  さらに、被逮捕者に生じうる問題として、違法な現行犯逮捕に対して反撃した被逮捕者に正当防衛が成立しうることを認めるが、被逮捕者が逮捕者の錯誤について共同の責を負っている場合には、被逮捕者はその反撃に際して抑制的な態度をとるべきであり、逮捕者の誤解を解消するための努力を尽くさなかった場合には、防衛行為の相当性が否定され、過剰防衛として取り扱うべきである(二(2))。  最後に、現行犯逮捕と正当防衛の競合について簡単に言及する(二(3))。

収録刊行物

  • 法学新報

    法学新報 123 (9-10), 559-581, 2017-03-20

    法学新報編集委員会

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