人々が期待する文化振興策のジャンル間比較 : 全国調査データを中心に

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タイトル別名
  • Cultural Policy and Expectation for Cultural Development in Japan

抄録

日本がこれから文化的に発展するための文化振興策として、日本人は何を望んでいるかを中心に、2019年全国調査をもとにその特徴を明らかにした。調査データは無作為による2段確率比例抽出法によるデータである。文化芸術振興基本法のもと芸術文化立国を目指した政策がとられているが、調査では文化の概念を幅広くとらえて商業主義的な文化も含めた多様なジャンルを提示し、人々がどのようなジャンルを振興策として期待しているかを明らかにした。分析の結果、日本人が文化的発展をイメージして希望した文化振興策とは、西洋的な芸術文化ジャンルではなく、日本の伝統的文化や日本固有の文化への回帰とその発展ということが、明確になったといえよう。とくに芸術文化の代表であるクラシック音楽と西洋美術を選択した比率は最も少なかった。西洋芸術文化は日本の文化政策の中心ジャンルであるにもかかわらず、人々の期待はそこにはなく、むしろ日本の食文化や日本の伝統文化、地域の祭りなどへの期待が高かった。各ジャンルを文化振興策として支持する人々の特徴を分析した結果、ジェンダーや世代間の差異も存在するが、現実の文化実践との関連性が高いことがわかった。  大学生への意見聴取からは、西洋的芸術文化を文化資本が必要な高尚なジャンルと認め振興を期待する人と、そうではなく日本では親しみも弱くマイナーな文化であるという認識から公的支援すべきという異なる文脈での見解がみられた。若者にとっての西洋芸術文化との距離は、親しみにくい、なじみがないという表現で示され、若者の西洋芸術文化離れが拡大している。若者も日本の伝統文化や地域文化の振興を望んでおり、そこには非商業主義で減退しつつある日本文化を盛り上げることへの期待が込められており、ナショナル・アイデンティティとの関連性もみられた。

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