<論文>ランナウェイ・ロマンスと、『旅情』(1955年)の自己言及性

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  • 國永, 孟
    京都大学大学院人間・環境学研究科共生人間学専攻

書誌事項

タイトル別名
  • <Originals>The Emergence of “Runaway Romances” in Postwar Hollywood and David Lean's Summertime (1955) as a Self-Referential Text
  • ランナウェイ・ロマンスと、『旅情』(1955年)の自己言及性
  • ランナウェイ ・ ロマンス ト 、 『 リョジョウ 』(1955ネン)ノ ジコ ゲンキュウセイ

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抄録

1940年代後半以降,ハリウッド映画産業は急激な観客数減少に対処しなければならなくなる.メジャー・スタジオは状況を打破するため,ヨーロッパをはじめアメリカ国外での映画製作に力を入れる.当時新しく導入されたワイドスクリーン方式を積極的に採用し,ロケーション撮影で製作が行われた映画のなかには,ヨーロッパへ旅行に出かける外国人(多くの場合アメリカ人)女性を描いた作品が複数存在する.ロバート・シャンドレーはこうした映画を後に「ランナウェイ・ロマンス」と名付けた.このジャンルの最も代表的な作品はウィリアム・ワイラー監督の『ローマの休日』(1953年)である.同作の商業的成功は,映画観客が映画のロケーション撮影地へ赴き,映画で見たイメージを現実の世界で確認するロケーション・ツーリズムに先鞭をつけた.本論文の目的は,デヴィッド・リーンが監督した『旅情』(1955年)を取り上げ,ランナウェイ・ロマンス作品が生み出す観光都市の他者化されたイメージに対して,同作が自己言及性を持っていることを明らかにすることである.そのためにまず,第二次世界大戦後のハリウッド映画産業において観光を扱った物語映画が出現する歴史的背景について確認する(1節).次に,ヨーロッパにおける外国人(多くの場合アメリカ人)観光客のロマンスを扱った物語映画に関する先行研究を整理し,こうした映画群のプロトタイプ『ローマの休日』で観光客の役割を果たした主人公アンの表象に着目する(2節).これらの考察を踏まえて,後半部では分析の対象を『旅情』の映画テクストに移す.劇中に登場する16ミリフィルムカメラの演出方法に着目し,観光のメディア化によって生まれたイメージを追い求める観光客について,同時代の言説を踏まえて論じる(3節).最後に,メディアによって構築された観光都市のイメージとそのズレがどのように演出されているのかを分析し,『旅情』が観光を扱った物語映画に対して自己言及性を備えていることを明らかにする(4節).

本稿は,日本映像学会第47回大会(2021年6月5日・愛知県立芸術大学/オンライン開催)で行なった研究発表「『旅情』(1955年)のまなざしをめぐって: ジェンダー/観光と「ヘリテージ映画」の観点から」を土台としている.また本研究は,JST次世代研究者挑戦的研究プログラムJPMJSP2110の支援を受けたものである.

収録刊行物

  • 人間・環境学

    人間・環境学 31 15-27, 2022-12-20

    京都大学大学院人間・環境学研究科

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