19世紀末から20世紀初頭のチェコ音楽と政治 : 近代国家の成立と芸術音楽の役割

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  • Czech Music and Politics from the Late 19th Century to Early 20th Century : Formation of a Modern Nation and the Role of Art Music

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抄録

19 世紀後半,ロシア,東欧,北欧等,ヨーロッパ周縁の国々では「国民楽派」と称される作曲家グループが顕著な活躍を見せ,16 世紀以来,ハプスブルク家の支配下に置かれていた中欧の「チェコ」においても,民族固有の音楽を創造しようとする動きが活発化していった。 本論文は,主に19 世末から20 世紀初頭を中心に,20 世紀,新時代をめぐる「チェコ音楽」の動向を「ナショナリズム」の視座から洞察し,近代国家成立のプロセスを通して,「国民音楽」の方向性,つまり「近代チェコ」の理念に最も相応しい芸術音楽の創造がどのように決定づけられたのかを明らかにするとともに,「音芸術の果たす役割とは何か」を歴史的に考察するものである。即ち,政治的にモティーフ化された「フス派のコラール(賛美歌)」の表現的機能性や,B.スメタナ及びA.ドヴォジャークら,「ボヘミア楽派」の創作を軸に政界を巻き込むかたちで展開していった「進歩派」と「保守派」の対立,そして新生国家の成立に向けて提唱された「チェコ国民音楽」の概念,並びに「チェコ国民楽派」の始祖としての「スメタナ像」の確立について詳述し,さらにその反動として生じた「ドヴォジャーク擁護論」,およびその汎スラヴ的思想の流れを汲む現代作曲家L.ヤナーチェクによる「モラヴィア主義」の音表象と,更なる前衛音楽への再編を論点としながら,そのような「国民音楽」の創造をめぐる一連の動向を政治的思想と関係づけて跡づける。 近代国家の形成期にみるチェコ人の文化ナショナリズム,特に「ナショナリズムの音現象」をめぐる動きは,こうして世紀の転換期という劇的に変容する社会の中で,いかにして「民族文化」の成立を達成できるかという国家的な課題に対し,何よりスメタナやドヴォジャークを鍵とするチェコ音楽文化の有りように,時の政治家たちも強い関心をいだき真摯に議論を交わす中で,「ボヘミアにみる進歩的西欧の地平でのチェコ音楽の創造」と「モラヴィアの民俗音楽に基づくスラヴ文化の再構築」という対立軸を通してより一層複雑な展開を誘引しながら,その後のチェコ音楽の歩むべき未来を決定づけていったと考えることができる。

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