[論文] 近世における江戸暦問屋と大小暦 : 『暦記録』にみる幕府統制の実態
書誌事項
- タイトル別名
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- [Article] Edo Calendar Wholesalers and Daishō Calendars in the Early Modern Period : The Actual State of Shogunate Control as Seen in the “Calendar Records”
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説明
本稿は、江戸暦問屋の裁判・願書の記録『暦記録 巻四』の分析を通して、天保期の暦出版統制の実態について考察しようとするものである。本史料は、従来分析されていない暦違法出版の裁判の流れを記録している。文政十三年(一八三〇)「板木屋定治郎一件」・天保六年(一八三五)「喜多村御役所江願書差上候坂本氏略暦一条」の二件の記録を見ると、この二事例を境に暦出版の取締り方針が変更・明確化されたことがわかる。主な変更点は、従来武家の私家版(交換用の「大小」と呼ばれる略暦)が取締り対象外とされていたのを、天文方高橋作左衛門(景保)の意向を汲んで取締り対象に加えた点である。これは、交換用の暦を取締り対象外としていた従来研究の通説が天保二年以降には当てはまらないことを示している。 この変更を経て、天保七年(一八三六)「暦似寄品取扱候者十八人名前舘御役所江申立候處於南御番所御裁許ニ相成候一件」では、暦問屋が実際に販売されていた大小を証拠品として町年寄に提出し、販売に関与した地本問屋・板木屋・世利商人が過料を言い渡された。これは町触・『暦記録』に記された江戸における暦違法出版の唯一の取締り事例である。この事件から判明することは、①実際に大小暦が(恐らく本事例以前にも)違法販売されていたこと、②唯一の取締りも、暦問屋の訴えによる受動的な取締りであったこと、の二点である。 以上の史料分析を通して、今まで未解明であった江戸における暦出版の取締りの流れを確認し、取締り対象の変遷を追うことができた。実際に取締りが行われた天保期においても、幕府が積極的に暦の違法出版を取り締まっていたとは言いがたい。しかし、交換用の大小作成の違法化の背景に天文方の意向があることがうかがえる。当時の天文方の動向と暦出版との関連性については、今後の課題としたい。
収録刊行物
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- 国立歴史民俗博物館研究報告
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国立歴史民俗博物館研究報告 240 17-33, 2023-03-31
国立歴史民俗博物館
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1050299673794698112
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- NII書誌ID
- AN00377607
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- ISSN
- 02867400
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- 本文言語コード
- ja
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- 資料種別
- departmental bulletin paper
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- データソース種別
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- IRDB